コラム  財政・社会保障制度  2020.03.09

コロナ・ショックへの経済対策:株式買支えと個人向け緊急融資を

 2020年3月上旬現在、新型コロナ感染症による国民生活への影響が深刻さを増している。新型コロナ感染症の蔓延を抑える(遅らせる)ためには、人と人との接触を最小限にする必要があるため、あらゆる経済的・社会的な活動が収縮させられている。イベントの自粛や学校の休校による直接的な影響に加え、不安心理の高まりから世界的に株価の暴落が止まらなくなっている。

 経済活動の悪化には、感染症対策の直接コストと、不安心理による間接的影響の二種類がある。直接コストは、スポーツや音楽などイベントの自粛による経済損失だが、無観客試合やネット配信など対策が計られつつあるものの、相当程度は甘受するしかない。

 間接的影響は、株価の下落や経済活動の停滞が需要の縮小を引き起こし、それがさらなる経済活動の停滞に波及していくコンフィデンス・クライシスであるが、こちらは経済政策で止められる。それは政府または日銀による株式の買支えと、低所得層の個人を対象とした生活支援目的の緊急融資である。


1. 株式買支え政策の正当性

 いま求められる経済政策の基本的な目標は、①景気の先行きについての不確実性や悲観論が市場を通じて増幅されることをくい止めること、そして②感染症対策に逆行しないこと(多数が集まるイベントの再開を促さないなど)、である。

 悲観論の増幅の連鎖を止めるためのもっとも直接的な政策は、政府による株式の買い支えである。日本の株価は、コロナ・ショック前にはバブルではなかった(この仮定が間違っていて、本当は株価バブルだったかもしれないが、いまはその可能性は無視する)。新型コロナ感染症によって経済のファンダメンタルズが悪化した分だけ株価が下がるのは仕方ないが、それ以上の下落は食い止めなければならない。どこまでがファンダメンタルな下落か分からないが、政府や日銀が市場全体の安定を図りながら、日経平均株価が例えば2万円(過去24か月の移動平均より1割安い水準)を下回らないようにETFの購入によって買支えを行うことは不合理ではない。株価が暴落している現時点でETFを買い、将来、株価が回復したときに売れば国庫にも利益をもたらす。

 また、これまでのバブル崩壊や金融危機のときは、市場参加者の投機的な行動にも株価下落の責任の一端があったのに対して、今回は感染症というまったく市場参加者に責任のない事態による株価下落である。道義的にみても、市場救済のために政府や日銀が出動することは、これまでのケースに比べて、格段に国民の理解を得やすいはずである。


2. 個人の生活支援向け緊急融資 - シンプルで使いやすい制度に

 コロナ・ショックによって、経済活動の自粛が一気に進み、非正規雇用の労働者や零細な個人事業主は、対応する間もなく、収入の道が途絶え、急激に生活が悪化している。こうした個人は消費を急減させ、経済全体の総需要を過度に減少させる。景気の不必要な落ち込みを防ぐためにも、個人に対する生活支援の政策が必要である。

 しかし、どの個人がどの程度の損害を被っているのか、リアルタイムで政府は知ることはできない。だが、個人の支援が上手くできないからといって、政府が企業や産業界だけを重点的に支援することは、今回は不適切だ。なぜなら、コロナ・ショックによって、どの企業や業界が生き残り、どの企業や業界が市場から退出することになるのか、今の段階では分からないからである。たとえば、新型コロナ感染症が季節性の病気として人間界に定着すれば、観光業や芸能文化産業のあり方、一般のビジネスでの商談のあり方などがかなり変化するかもしれない。その場合、衰退する業種もあれば新しく生まれるビジネスモデルもあるだろう。それがどうなるか分からない現状において、どの企業を支援すべきか政府が決めることは難しい。したがって企業への支援だけではなく、個人への支援に重心を置くべきだ。

 コロナ・ショックによって個人が苦しんでいる生活困難は、転職などによって生活再建をするには時間がかかるのに、それまでの間、生活資金(流動性資金)が得られない、という「流動性不足」の問題である。本来は銀行などが生活資金を貸せば理想的だが、感染症のために経済全体で不確実性が高まっている現状では、銀行は十分に貸出を増やせない。このような流動性不足の問題は、公的部門が貸出を行うことで緩和することができる。

 そこで、支援の必要な個人が自己申告し、その自己申告に基づいて融資を行うシンプルで使いやすい貸付制度を提案したい。たとえばつぎのようなものである。

 コロナ・ショックで収入が途絶するなどして生活苦に陥った人は、マイナンバーを申告しさえすれば無審査・無担保・無条件で国から毎月10万円まで1年間、借りることができるとする。緊急の融資なので無審査だが、所得を偽る不正を防ぐために、事後的に国(税務当局)が必要な調査をできることにすればよい。返済は3年間猶予して2024年度から開始する。2024年度までは金利ゼロとし、その後は、借入残高には年率1%程度の金利を付ける(あるいは、たとえば30年物国債の利回りと同じにする)。

 つまり、融資を受けた個人は、3年後に一括返済できれば無利子になるが、その後は返済を遅らせれば遅らせるだけ金利がコストとしてかかることになる。この融資制度はマイナンバーで管理し、納税とあわせて返済もできるように制度設計してもよい。返済先延ばしを続けると、最終的には、老後に公的年金の給付額から毎月少額ずつ返済分を差し引かれるようにする。これで貸し倒れリスクも減らせる。また、その人の公的年金給付額が確定した時点で、「年金の額が一定のレベルよりも低い人は返済を免除する」という救済措置も入れておくとよいだろう。

 仮に1000万人がこうした融資制度を利用すると仮定すれば、最初の貸出のために12兆円ほどの政府支出が必要になり、その分だけ国債を新たに発行しなければならなくなるが、コロナ・ショックで消費が抑制され、貯蓄が増えるので、難なく国債は消化されるだろう。また、将来的に、12兆円の大半は利子つきで国庫に返済されるので国民負担はほとんど生じないはずである。


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 感染症との闘いという緊急事態において、景気が不必要に委縮してしまわないように下支えすることは経済政策の大きな役割である。上に述べた緊急の融資制度はあくまで一案にすぎないが、経済理論から政策実践まで様々な分野のアイデアを持ち寄ってコロナ・ショックに対応する経済政策の策を早急に立案し、実施するべきではないだろうか。