メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.02.27

食料自給率のわな

日本経済新聞夕刊【十字路】2020年2月19日に掲載

 2000年に閣議決定された食料・農業・農村基本計画は、食料自給率(カロリーベース)を当時の40%から10年間で45%に引き上げる目標を立てた。以降、政府は20年間もこの目標を掲げているが、目標に近づくどころか実際には37%へ下がっている。

 今年は基本計画の5年ごとの改定を迎える。実は自給率目標には農林族議員から、否定的な意見が出ている。これだけ時間をかけても目標が達成されず、地元有権者から批判が出ているからだ。

 もちろん農協や農林水産省は自給率目標を下ろしたくない。食料自給率は同省にとって最高のプロパガンダである。食料の60%以上を海外に依存していると聞くと国民は不安になり、農業保護への支持が高まる。逆に自給率が高くなると困る。これはわなだ。閣議決定までされた目標を達成できなくても、省内にうなだれる職員などいないし、責任をとった幹部も皆無だ。

 食料自給率とは国内生産を輸入も含めた消費量で割った値だから、飽食といわれる今の消費を前提にすると自給率は下がる。飢餓が発生した終戦直後の自給率は、輸入がなく国内生産が消費量に等しいので100%だ。金額ベースでも同じだ。食料自給率は食料の安定供給の指標として適切ではない。

 自給率目標が正しいとしてもこれを下げたのは農政だ。1960年以降、米価を上げ麦価を据え置いた。国産米の需要を減らし、輸入麦が中心である麦の需要を伸ばす外国品を優遇する政策をとれば自給率は下がる。今では米を500万トン減産する一方、麦を800万トン輸入している。戦前、農林省の減反案を陸軍省がつぶした。減反は食料安全保障に反するからだ。減反を止めて国内消費以上に生産して輸出すれば自給率は上がる。本気で自給率を上げたいなら減反をやめるべきだ。