メディア掲載 グローバルエコノミー 2020.02.20
1月31日、イギリスがEUから離脱しました。今後はどうなるのかに注目が集まっていますね。
今年、2020年はブレグジットへの移行期間とされています。イギリスはEUの意思決定プロセスに関与しないこととなるだけで、経済的には年末までEUの制度の中にとどまることになります。2月以降直ちに経済的な変化が生じるわけではありません。
そうなると、来年2021年以降のイギリスとEUの関係はどうなるのでしょうか?
それについて、移行期間の今年、交渉されることになります。
EUとの合意では2022年まで移行期間を延長できることになっていますが、ジョンソン首相は2020年中に自由貿易協定を締結すると主張しています。
このため、もし2020年中に自由貿易協定に合意できなければ、2021年から、イギリスとEUは相互に通常の関税を適用することになります。例えば、自動車では、自由貿易協定を結べば関税はゼロになりますが、結べなければ10%の関税が適用されます。イギリスの自動車工場がヨーロッパから部品を輸入して、ヨーロッパに自動車を輸出するような場合、部品にも自動車にも関税がかかります。部品への関税で生産コストが上昇した上に、自動車関税がかかるため、イギリス車のヨーロッパでの販売コストは10%以上上昇してしまいます。
今年の交渉が肝心なのですね。見通しはどうでしょうか?
EUやその加盟国からは、日本とEUの交渉は4年もかかったことからすると、1年以内で交渉をまとめることは困難だとか、経済規模の大きいEUはイギリスを交渉で圧倒できるという発言もあります。
内容については、EUと同じレベルの労働や環境等の規制水準を採用することをイギリスが約束しなければ、関税ゼロでのアクセスは認めないという主張が出ています。イギリスがEUよりも規制を緩やかにするとイギリス産業の生産コストが低くなり、その競争力が上がることになるからです。共通の土俵で競争することが必要だということです。
金融サービスについては、EUを含むヨーロッパ経済領域内のどこか1か国で認可されれば、領域内のどの国でも自由に金融業を営むことができる「シングルパスポート」という制度があります。このため、金融機関の多くがシティのあるロンドンにヨーロッパでの事業拠点を置いています。しかし、EUは、EUと同等の規制を行っていなければイギリスにこの制度を認めないとしています。これも共通の土俵の主張の一つです。
イギリスの強みはないのでしょうか?
モノの貿易では、2018年EUはイギリスに対して940億ポンドの貿易黒字となっています。関税が高くなると、イギリスはアメリカなどEU以外の国からの輸入を増やそうとします。イギリスとの自由貿易をより強く望むのはEUの方です。
共通の土俵の主張ですが、そもそもEUと同じような規制やルールを採用し続けるよう主権国家であるイギリスに要求することは無理です。それではイギリスとしては何のためにブレグジットをしたのかわからなくなります。EUから主権を回復して自由に法律や規制を定められるようにしようというのがブレグジットだからです。
EUがこれまで自由貿易協定を結んできた日本やカナダにはこれを要求しないで、イギリスに要求するのは不当です。逆に、相互主義の観点からは、EUがイギリスよりも規制を緩和することも認められないことになるが、それでもEUはよいのでしょうか?
また、ユーロ金融のシングルパスポート制度については、すでにかなりの金融機関がロンドンからヨーロッパ大陸に事業拠点を移しており、事実上ブレグジットは行われています。
漁業が問題だという声もありますが?
イギリスの漁業水域でフランス、オランダ、デンマークなどのEU加盟国の漁業者はEU全体の漁獲量の42%を採っています。
これまではEUの共通漁業政策の下で、つまりブリュッセルによってEU加盟国には漁獲割り当てが認められていましたが、今後はイギリス政府が資源量等を勘案しながら毎年各国に割り当てることになります。2020年中にイギリスと合意できなければ、2021年からEU加盟国の漁獲割り当てはゼロになる可能性があります。
これはフランスなどにとって大変な政治問題になります。漁業は経済的な規模は小さいのですが、地域経済では重要な役割を果たし、政治的に重要な産業だからです。デンマークの首相は移行期間中の交渉について漁業が重要なイッシュー(議題)だと声を上げています。
金融についてEUが厳しい対応をするなら、イギリスは漁業について厳しい対応をするでしょう。イギリスとEU双方がどうしても合意なき離脱を回避したいというのであれば、集中的に交渉し2020年中に合意するしかありません。
交渉が今年合意できずに、無協定という事態になったどうなるのでしょうか?
自由貿易協定という合意があっても、イギリスからEUに輸入されるものが本当に関税がゼロとなるイギリス産のものかどうかを判断するため、国境管理、通関手続きが必要となります。これは合意がない場合と同じです。合意があると関税がゼロになるというだけです。
また、今年合意できない場合には、2021年にいったん関税は復活しますが、例えば2022年に自由貿易協定交渉の合意ができれば、それ以降は関税はなくなります。
イギリスとEUの自由貿易協定が成立しなくても、イギリスがEUから完全に離脱する2021年からは、イギリスは日本、アメリカなどEU以外の国との自由貿易協定を締結し、発効することができます。TPPへも参加できます。合意ができなくても、悪い話ばかりではありません。
今週発表されたNHKの世論調査で、「イギリスのEU離脱が日本経済にもたらす影響について尋ねたところ、『大いに懸念している』『ある程度懸念している』と答えた人が合わせて51%になりました。日本経済への影響はどうでしょう?
イギリスに進出している企業は立地の再検討が必要になるかもしれません。しかし、日本にとって貿易の相手国としてのイギリスは、輸出で13位、輸入で20位、シェアも1%から2%となっています。一時的に関税が上がるかもしれませんが、自由貿易協定を結べば、再び関税をゼロにできます。あまり心配する必要はなさそうです。