メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.01.22

2020年の通商問題

日本経済新聞夕刊【十字路】2020年1月8日に掲載

 世界の通商問題の大きなかく乱要因はトランプ米国大統領だ。安全保障を理由とする鉄鋼関税の引き上げ。北米自由貿易協定の見直し。環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退と、その影響による米国産農産物の不利な競争条件を克服するための日米貿易交渉の要求。欧州連合(EU)との貿易を合めた関係悪化と、その裏腹にあるプレグジットへの支持。極めつきは米中貿易戦争。すべてトランプ氏の主導である。

 米中貿易戦争は両国への輸出が有利となったベトナムなどへの生産拠点の移動という副産物も生んだ。

 彼が2020年に再選されるには、激戦州が多い中西部の重要な産業である鉄や自動車、農業への対策が必要だ。農業は日米貿易交渉で日本に譲歩させ、米中合意では中国に米国産農産物の大幅な買い付けを約束させた。農業が弱みだとわかっているので、逆に中国は大豆、メキシコは乳製品、EUはバーボンに対して報復関税を課した。

 ただし消費財である自動車については、貿易交渉をしなかったEUに対して関税を引き上げられなかった。スマートフォンなどの消費財を多く含む第4弾の対中制裁関税は発動を見送った。選挙で消費者を敵に回せないからだ。これも自称「タリフマン(関税の男)」の弱みである。

 彼は共和党員による不動の支持を背に、議会の弾劾手続きにも動じる様子はない。ところが大きな影響力を持つキリスト教福音派の有力誌が、彼を大統領にふさわしくないと批判した。これで共和党員の支持が揺らげば、彼は再選のために、よりいっそう貿易交渉に積極的になるかもしれない。他方で、交渉相手もトランプ氏の弱点を学習している。さらに米中間で積み残している問題は中国の体制に絡むものが多い。通商交渉はより難しくなりそうだ。