メディア掲載  グローバルエコノミー  2020.01.08

日米貿易交渉の評価

共同通信より配信(2019年12月)

 日米貿易協定は、自動車の関税引き上げをちらつかせる米側の脅しに日本政府が屈し、譲歩を重ねた内容だ。

 トランプ米大統領は就任直後に環太平洋連携協定(TPP)から離脱、力で圧倒できる2国間の交渉を日本に求めた。恐れた日本は米国抜きで11カ国による「TPP11」を作り、米国産農産物よりもオーストラリアなど参加国産の関税を低くして米国産を不利に扱い、米国が強く出られないようにしようと考えた。

 トランプ氏は米国の農業地帯である中西部で勝利しなければ再選できない。TPP11で生じたオーストラリアなどとの不利な競争条件を是正するため、日本との貿易協定はぜひとも必要だった。


簡単にカード

 お願いされる立場の日本は、米国に対して圧倒的に有利な地位にあるにもかかわらず、TPP以上の譲歩を要求されると勝手に思い込んだ。

 交渉に入る前からTPP以上の譲歩はできないと主張、予防線を張ったつもりが反対にTPPの水準まで農産物関税を米国に譲歩してしまった。簡単にカードを切ってしまったことにより、米国はTPP交渉で日本に認めた自動車の関税撤廃を拒否した。

 日本政府は一方で、TPP交渉で米国に与えたコメの無税輸出枠7万トンについて、日米間で認めなかったことを「勝利」だと主張している。しかし、米国が要求しなかったことには理由がある。

 日米のコメの内外価格差が縮小し、主産地カリフォルニアのコメ産業は現在の10万トンの輸入枠さえ消化できない。新たに7万トンの枠を設定されても利用できない。政治的には、大統領選挙でカリフォルニアは民主党が必ず勝つ州なので、コメで頑張ってもトランプ氏の再選にはつながらない。

 日本政府が2国間交渉に応じたのは、安全保障を理由に自動車の関税を大幅に引き上げるというトランプにおびえたからだ。しかし、自動車関税の引き上げは価格上昇を招き、全米の消費者に打撃を与えるので、発動は難しい。

 日本と同じく自動車業界を抱える欧州連合(EU)はそれを見透かして、米国との交渉に応じなかった。安倍政権は自動車関税の発動を回避したと主張するが、対EUも含めてその発動がなければ、見通しを大きく誤ったことになる。

 一方、主要な農産物関税は維持される中で牛肉や豚肉の関税などは削減されるが、これまでの為替相場の円安によって効果は相殺されるので、日本の農業への影響はほとんどない。しかも、この数年間来牛肉・豚肉の価格は歴史的高水準で農業対策は必要ない。


「二重」のつけ

 政府は3千億円のTPP農業対策を毎年講じてきた。今回、交渉結果をTPPの範囲内に収めたと主張しながら、対策をさらに上乗せした。しかも、対策の対象農家の所得は養豚農家で平均2千万円前後にも上るなど極めて高水準だ。

 日米貿易交渉の結果、国民は消費者として関税による高価格、さらに納税者として農家対策費という二重の負担のつけを回されることになる。