メディア掲載 エネルギー・環境 2020.01.08
はじめに
お招きいただきありがとうございます。この委員会で証言できることを名誉に思います。私の名前はテッド・ノードハウスで、カリフォルニア州オークランドに位置する環境シンクタンク、ブレークスルー研究所の創設者で所長です。当シンクタンクは、シニアフェローとして多くの有力な気候科学者、技術研究者、社会科学者を擁しており、今日の私の証言はその総合的な成果を提示するものです。気候リスクの性質、温暖化対策の行動および行動しないことに伴う不確実性、そしてそれらのリスクへの対応として私たちが行える現実的なステップについての評価を述べます。
気候科学、リスク、不確実性
はじめに、まず気候科学と気候リスクについていくつか見解を述べさせていただきます。まず、人為的気候変動については、確立した科学的コンセンサスがあります。地球の温度は上昇しており、その上昇の一定の部分は、化石燃料の燃焼により排出される温室ガス排出により引き起こされています。第二に、私の知る限り、多数意見派か少数意見派かに関わらず、本日招かれた証人の誰一人として、この確立した事実を疑問視してはおりません。第三に、このコンセンサスを超えたところではかなりの不確実性があります。気候の感度、個別の環境影響の可能性、適応の可能性、削減のための費用などです。このため、きわめて広範かつ即座の温暖化対策の行動をするという選択肢も、何一つ行動をとらないという選択肢も、どちらも十分に正当化できる状況になっています。
排出削減と不確実性
では、政策立案者はどう対応すべきでしょうか? まず排出削減策について述べましょう。温室効果ガスの排出について、割り当て、価格付け、規制をしようという政策で、排出のトレンドが大きく変わったところは一つもありません。最もよい条件下でも、こうした政策は低炭素な燃料や技術をわずかに有利にしただけです。このことから、脱炭素を現状(business as usual) の道筋から大きく変えることの可否は、安価でかつスケーラブルな低炭素技術があるかどうかにかかっています。
現在、アメリカ経済に負担をかけずにアメリカが排出削減をする政策として、国が採用できる重要な短期的手段がいくつかあります。中でも最も重要なのは、アメリカの既存の原子炉を稼働させ続けることです。また石炭産業を財政援助しようという見当違いの努力は放棄すべきです。しかし気候変動の方向性を変えるほどに大気中の温室効果ガス濃度を引き下げるためには、発電部門への対応だけでは足りません。官民協調による協力で、電力部門以外の工業、運輸、農業部門から生じる米国全体の70%に上る排出を削減するために、各種の低価格な低炭素技術を開発しなければなりません。そうした技術としては、先進的な原子力、CO2回収貯留、先進的な地熱等の再生可能エネルギー技術、長期的なエネルギー貯蔵技術などがあります。しかし、このような行動が最も上手くいった場合においてすら、地球の温度上昇を2度以下に抑えるのは困難でしょう。
温度の上昇した世界への適応
このため、人間社会が今後数十年ないし数世紀にわたり、変化する気候をどう切り抜けるかについては、気候への適応が重要な役割を果たします。インフラ―防波堤、洪水対策の排水路、先進的な住宅、交通網、上下水道など―こそが、極端な気候事象に対する抵抗力をもたらすのです。したがって、気候変動への長期的な適応の見通しを改善するために、この議会は、米国のインフラ投資の大幅増加に合意すべきです。これは同時に、米国の全国民に対して、気候変動のみならずあらゆる自然災害について、包括的に国家が対応することを、改めて約束するものでもあります。
結論
以上をまとめます。これまでの気候変動論争は、幾つかの点でバランスを欠いていました。まず、排出削減ばかりを強調し、適応をないがしろにしてきました。また、炭素排出を減らすことばかりに注目して、他の排出削減の戦略を無視してきました。更に、炭素排出の多いエネルギーを高価にすることに熱心で、炭素排出の少ないエネルギーを安価にすることを軽視してきました。そして、再生可能エネルギーにばかりこだわって、世界経済の大幅な脱炭素化に寄与する、原子力等の多くの低炭素技術を否定してきたのです。
気候変動は現実に起きており、その原因は第一義的には人為的なものであり、それがもたらすリスクは定量化が困難ながら、大災厄になる可能性があります。このため、気候変動に対しては、リーズナブルな緩和策・適応策を実施すべきです。最後に個人的な意見を述べます。私はこの問題に二十年取り組んできましした。その結果として、気候変動論争のあらゆる関係者が誇張を控えること、これが米国にとっても世界にとっても有益だと確信しています。この問題に伴う解決不能な不確実性に直面するにあたり、罵倒、恫喝、全否定といった態度よりも、穏健さ、謙虚さ、現実主義のほうが利益にかなっています。私自身はこれを心がけております。皆さんも是非、この決意に加わっていただけないでしょうか。
*この記事は、Ted Nordhasuによる証言(Oral Testimony to the House Science Committee May 16, 2018)の本人による要約を、杉山大志研究主幹が邦訳したもの。
原文は以下を参照:
https://thebreakthrough.org/issues/energy/using-technology-to-address-climate-change
証言の動画は以下を参照:
https://www.youtube.com/watch?v=qj2YNlm6y_0&feature=youtu.be