メディア掲載  財政・社会保障制度  2019.10.29

【数字は語る】年金が抱える「暗黙の債務」5年で110兆円超も膨張

週刊ダイヤモンド第107巻41号( 2019年10月26日発行)に掲載
1110兆円― 公的年金(厚生年金+国民年金)が抱える「暗黙の債務」
(出所:社会保障審議会年金部会「2019(令和元)年財政検証関連資料)


 財政赤字が恒常化する中、政府債務は1000兆円超に達するが、さらに見えない債務も存在する。その一つが、賦課方式年金が抱える「暗黙の債務」であり、この債務は「積立方式であれば存在していた積立金と、実際の積立金との差額」(※1)として定義される。

 積立方式での債務の存在は明らかな一方、賦課方式にも実は債務が存在する。これは、賦課方式年金と同じ効果を持つ政策が、「公債発行・課税政策に、完全積立方式の年金制度を組み込む」ことによって実行可能であることから導かれる。賦課方式は、(1)制度発足時の老齢世代は負担ゼロで現役世代から移転を受け取り、(2)それ以降の老齢世代は現役期の負担と引き換えに現役世代から移転を受け取るというものだ。

 すなわち、現役世代から老齢世代に世代間所得移転を繰り返す方式であるが(1)に対応するため、制度発足時に公債を発行し、それを財源として、老齢世代に所得移転する。その後、公債が無限に大きくなるのを防ぐため、公債残高をGDPで比較して一定に保つよう租税負担する。次に、(2)と同じ効果を生み出すよう、完全積立方式の年金制度を組み込む。すると、これは賦課方式とまったく同等の政策になる。すなわち、「賦課方式=公債発行・課税政策+完全積立方式」の関係が成り立ち、この同等政策で発生する債務は前述の「※1」と同一のものとなる。この債務は理論的には通常の公債が発行されていることと変わりない。

 現在の暗黙の債務はどのくらいか。それは、厚生労働省が公表した「2019年財政検証」の資料から分かる。人口前提が出生・死亡中位、経済前提がケース3(29年度以降の実質GDP成長率が0.4%)における公的年金のバランスシート(運用利回りによる一時金換算)から、「※1」を計算すると、暗黙の債務は1110兆円となる。GDPを560兆円とすると、対GDP比では約200%に相当する。14年財政検証では、ケース3に近いもので、暗黙の債務は約1000兆円であったので、この5年間でそれが約110兆円超も膨張した可能性がある。