メディア掲載  外交・安全保障  2019.10.02

日米欧三極連携は新時代へ

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2019年9月19日)に掲載

 先週久しぶりで日米欧の識者が一堂に集う国際会議に参加した。"東京三極フォーラム"と名付けられたこの会合、米シンクタンク・ジャーマンマーシャルファンドと東京財団政策研究所の共催だ。この種の集まりに顔を出すのは数年ぶりだが、その間に日米欧関係は様変わりした。今回はその理由と日米欧三極連携の将来について書こう。

 まず驚いたのは米側参加者の発言だ。「日本は米国東アジア外交の要であり、ルールに基づく開かれたインド太平洋地域、特に重要な海洋における航行の自由、を現状変更勢力から守る上で必要不可欠な同盟国だ」。この種の会合では対外的に発言者を特定しない「チャタムハウス」ルールがあるので詳細は控えるが、今回米政府高官が日本についてここまで言い切るとは正直思わなかった。

 この種の発言、実は過去10年以上も前から筆者が米国政府関係者に言わせたかった内容であり、実に感慨深く聞いた。当時、米国は対中関係改善の可能性を捨てていなかった。中国の対外的野心を抑止する一方、中国を国際社会に関与させることを第一に考えていたからだ。

 しかし、米国対中政策の変化はトランプ政権が始めたわけではない。筆者の皮膚感覚では、オバマ政権後半に既にその兆候があったと考える。尊敬する自衛隊OBは2015年初めの米軍高官演説が契機だったと見る。

 確かに、その後、CNNが南シナ海での中国の蛮行を大々的に報じ、夏には国防長官が中国を厳しく批判する演説を行った。追い打ちをかけたのが同年11月の米中首脳会談だ。ここで習近平国家主席は南シナ海人工島の軍事利用と対米サイバー攻撃をしないと約束するが、それを信じたオバマ大統領はその後裏切られたことを知り激怒する。

 米国の対中姿勢の変化は恐らく不可逆的なものになりつつあるだろう。

 問題は欧州側の対応だ。2日間の議論を通じて強く感じたのは対中関係に関する日米と欧州の温度差だ。今回欧州からの参加者は、官民を問わず、対中関係について奥歯に物が挟まった発言を繰り返していた。もちろん、欧州にも対中警戒感はある。夕食の席では「欧州の対中姿勢は以前よりはるかに厳しい」との声も聞かれた。「それでは不十分」と筆者が反論したら、米側識者からも「その通り」と合いの手が出た。明らかに欧州の立場は、日米と違うのだ。

 筆者は欧州を批判するつもりはない。「欧州に潜在的脅威はロシア一国かもしれないが、日本には中露という二つの脅威が実存する」と述べたが、欧州側から反論はなかった。これが実態である。

 2日目の会議では中国との経済関係が議論された。日米欧の中国経済離脱の可能性という恐ろしいお題だったが、議論は大きく割れた。経済のグローバリゼーションは不可避だが、だからといって中国経済からのデカップリング(分離)が不可能とはかぎらない。中国が態度を変えて国際ルールに基づく経済・貿易政策を採用するなら良いが、これまでの対中政策が全て失敗したことも事実だ、云々...。安全保障はもちろんだが、経済・貿易面でも特効薬はなさそうだ。

 それでは今後日米欧三極はどうなるのか。2日間の議論を通じ、対中関係の面からもやはり三極連携は重要だと痛感した。今の欧州は内向きで内部のごたごたが絶えない。一方、米国もトランプ政権の下で迷走が続く。しかし、というか、だからこそ、今日本はグローバルな三極連携、特に欧州の東アジア関与、を深めるべきなのだ。