お盆休みは自宅にいると決めている。行楽地はどこも混んでいて休養どころではないからだ。皮肉なことに先週はメディア露出が多かった。ニュースは夏枯れで、テレビ局のディレクターたちは"トランプネタ"を選び、東京にいた筆者に声が掛かったのだろう。質問はどの番組も似たり寄ったり。トランプ流外交とは? 対中追加関税の影響は? 米国は日韓仲介可能か? 近くイラン攻撃はあるのか? といった具合だ。
トランプ外交には辟易(へきえき)している筆者だが、そのメカニズムを分析する価値はある。なぜ今の米外交は失敗続きなのか。筆者の見立てを書こう。
トランプ政権はトランプ氏個人と大統領のスタッフという組織に分けて考える必要がある。同氏個人はナルシシストであり、統治よりも選挙に関心がある。米国経済が良好な中、中国叩(たた)き、移民叩きで再選を狙っているのだろう。
これに対しトランプ組織はベストではないが、そこそこ優秀な人材がまだおり、それなりに国益最大化に向け統治しようと努めている。問題は個人が組織を信頼していないこと。さらに、個人は組織内の競争をあおって複数の政策を提案させるが、最後は政策の善しあしではなく、それが得票に繋(つな)がるか否かを基準に政策を決めるらしいことだ。
組織の人々は個人の怒りを買わないよう十分注意しながら統治を試みている。こうしたトランプ政権「二分論」が正しければ、外交政策に一貫性などあるはずがない。良いニュースは一部外交政策がそれなりに成功していること、悪いニュースは今や政権内の優秀な人材が払底し始めていることだ。その典型例がマティス国防長官の辞任だろう。状況はアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」に酷似するが、政権の実態は推理小説以上に深刻である。
トランプ政権の個人と組織の方向性が最も一致しているのが対中政策だ。トランプ氏の対中強硬策は組織内のコンセンサスもあり、米議会民主党も同調している。これほど一貫性のあるトランプ外交は他にないだろう。逆に、最も一貫性を欠くのが朝鮮半島政策だ。北朝鮮叩きも選挙には効果が少なく、優先順位も低い。トランプ氏個人はポンペオ国務長官とボルトン大統領補佐官を競わせながら、テレビ映りの良いイベント作りのみ関心があるようだ。
その中間に位置するのが対イラン政策だろう。イラン叩きは北朝鮮より国内政治上効果が高く、高支持が見込めるからだ。だが、組織の一部がいかに強く主張しようとも、トランプ氏は対イラン戦争が間違いであることは正確に理解しているようだ。
番組最後で必ず出る質問がこれだ。駐留米軍経費の増額を日本は認めるのか、とも聞かれた。答えは簡単だ。
今は1980年代、90年代ではない。東アジアでは中国が台頭し、地域の安全保障環境は激変している。駐留軍経費増額は個人が選挙対策で言っているだけ。組織の人々はあまり問題視していないと見る。在日米軍基地の重要性は高まっており、経費増額よりも、日米の統合運用など戦略・戦術面での連携強化の方がはるかに重要だからだろう。
米国の長期金利が短期金利を下回り始め、今や世界的不況の波が見えてきた。ここでトランプ氏は米国大統領としての指導力を十分発揮できるのか。その成否は大統領再選だけでなく、第二次大戦後の国際秩序そのものにも重大な影響を及ぼすだろう。