ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2019.07.16

ワーキング・ペーパー(19-005E)「Optimal taxation with directed search and moral hazard」

本稿はワーキング・ペーパーです

 よく知られているように、1980年代以降、アメリカを始め、多くの先進国において所得格差の上昇が観察されている。この現象については様々な説明がなされてきたが、そのような状況下で所得再分配がどのように行われるべきかについては、未だ十分に解明されているとは言いがたく、本論文はこの点についての理論的貢献を目的としている。

 所得格差が生じる原因は何であろうか。運、努力、生来の能力など様々な要因があろう。どのような所得再配分政策が望ましいかは、所得格差の要因が何であるかによる。例えば、所得格差の全てが運による社会と、全てが努力による社会では、採用されるべき再分配政策は異なってくるだろう。そこで、本論文では、労働者の所得の違いが生じる要因として、運、努力、能力の3つを明示的に考え、望ましい政策を分析する。

 それに加えて、重要な要因は、賃金は、支払う側(雇用者)が労働のインセンティブなどを考えた上で成果に応じて支払額を決められているという事実である。従来の所得再分配理論(最適課税理論)では、この「雇用者がどのように賃金をデザインするか」という点が考慮されないことが通常であった。そこでは、賃金は単純に労働の限界生産性できまり、政府はそれを所与として、所得税が労働供給に与える負の影響をみながら、所得再分配政策を決めるという仮定がなされてきた。それに対して、本論文では、政府の所得再分配政策と企業が提示する賃金スケジュールが相互に作用し合う点を考慮して最適な所得再分配政策の分析を行った。

 このモデルのもとで、本論文では、最適な課税政策を導出し、所得税の累進性と社会厚生関数の間に簡潔で直観に合う関係があることが示された。