メディア掲載 財政・社会保障制度 2019.07.01
「老後に2000万円の貯蓄が必要」という金融庁の報告書が波紋を広げている。高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)では、公的年金の受給があっても毎月の赤字は約5万円となり、夫婦で95歳まで生きる場合には約2000万円(=約5万円×12カ月×30年)の貯蓄が必要となる可能性を指摘した。
2000万円という数字ばかりが話題になっているが、現実はこの試算よりも厳しい。なぜならば、金融庁の報告書では月額19万円の公的年金を受け取るケースを想定しているが、そもそもこれだけの年金を受け取れる高齢者は比較的裕福な層にすぎないためだ。
金融庁のモデルでは、夫婦一世帯の年金受給額は約230万円(=19万円×12カ月)であり、1人当たり約115万円となる。厚生労働省「年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)」(平成29年)によると、公的年金受給額の分布(65歳以上の男女計)で、年間120万円未満の年金しか受け取れない高齢者は46.3%、年間84万円未満の年金しか受け取れな い高齢者は27.8%もいる。
2000万円の貯蓄も相当に厳しいが、年金が230万円に満たない世帯ではさらなる貯蓄が求められる。それは多くの場合、現実には不可能だ。老後も可能な限り働き、それが限界になれば、親族に頼るか、「生活保護」の申請が必要になる。
一般的に生活保護というと、人ごとのように思われがちだが、生活保護の被保護人員は1990年代半ばの88万人を底に、増加傾向にあり、2017年には214万人に達している。そのうちの約半分が高齢者である。このような貧困高齢者が、今後も増加していくのは確実である。
今回の金融庁の報告書が突き付けたのは、公的年金制度や生活保護といった再分配の在り方である。10月に消費税率が10%に引き上げられる予定だが、社会保障の財源がそれだけでは不十分なのは明らかである。急増する貧困高齢者の問題を含め、改めて社会保障・税一体改革の議論を本格化すべきである。