メディア掲載 財政・社会保障制度 2019.06.24
2008年の世界的金融危機の後、大規模な金融緩和と財政出動が世界中で行われている。にもかかわらず、低金利下での低インフレ(デフレ)というトレンドが続いている。今回は、人々のインフレ期待は政策当局の意図せざる方向に変化しているのではないかという仮説について論じたい。
先進国、中でも日本は、緩和型の金融財政政策のもとでデフレが長期的に続く「デフレ均衡」に陥っているとみるべきだろう。デフレ均衡は通常の経済モデルでは理解できない現象だ。
米ニューヨーク大学のジェス・べンハビブ教授たちの02年の論文や18年の米ノースウエスタン大学のローレンス・クリスティアーノ教授と一橋大学の高橋悠太特任助教の論文などに見られるように、通常の経済理論では、緩和型の金融財政政策を続ければ、必ずインフレになるはずだからである。
緩和政策が有効な理由は次のように説明できる。通常の経済モデルでは「合理的な個人は資産や貨幣を無駄に残さない」という「横断性条件(TVC)」が成立する。大まかに言うと、政府債務(貨幣を含む)であれば「無限に増えることはない」という意昧だ。
緩和的な金融財政政策を続けているのに物価が上がらなければ、政府債務の実質価値は増え続ける(TVCが破れる)。政府債務は家計にとって資産だ。資産が無限に増えれば、家計の消費需要も無限に大きくなる。一方で、消費財の総量は有限だから、物価が上がらなければ需要が供給を限りなく超えてしまう。よって、緩和政策はインフレ率を必ず上昇させる。これがデフレ脱却についての通常の経済理論である。
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日本経済新聞 「経済教室」2019年6月12日掲載