メディア掲載 財政・社会保障制度 2019.03.11
日本の財政の先行きを見るのに参考とされるものの一つが内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」だ。2019年1月版では、基礎的財政収支(PB)の対GDP(国内総生産)比は、18年度の2.8%の赤字から、28年度には低成長シナリオ(ベースラインケース)でも0.9%の赤字に改善するという。
この数字だけを見ると、日本の財政問題は解決に向かう印象を持つ人も多いかもしれないが、現実は厳しい。実は、PBには、約1000兆円もの政府債務の利払い費が含まれていないのだ。そのため、財政について考えるに当たり、PBに利払い費を加えた財政収支(FB)も見る必要がある。
中長期試算には、年度別のFBの推移も示されている。FBの赤字は18年度の対GDP比4.1%から24年度にかけて2.0%に低下するものの、再び拡大に転じ、28年度には同2.7%となっている。このトレンドを見れば、中期的にFBが縮小するとは言い切れないだろう。
他方、債務の利払い費(FBとPBの差)は、18年度の対GDP比1.3%から28年度は同1.8%に拡大している。
いま政府債務の利払い費を抑制できているのは、日本銀行の異次元緩和の影響が大きい。2%の物価日標を達成するために13年4月に実施した異次元緩和は、限界が明らかになり、16年に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」にかじを切った。いま金融政策の重心は明らかに「金利」であり、日銀は、国債オペレーション等を通じて、短期金利をマイナス0.1%、長期金利(10年物国債の利回りに相当)を0%程度に制御する政策を実行している。
問題はこの政策がいつまで継続できるかだ。超低金利の長期化で金融機関の収益力が低下し、特に体力の弱い地域銀行を直撃している。これら副作用に加え、日銀の国債買い入れにも限界がある。長期金利が上昇に転じることになれば、利払い費が想定以上に膨らみ、財政収支をさらに悪化させることになる。そうなる前に、財政赤字の縮減に向けて、財政・社会保障の改革を進めておく必要がある。