メディア掲載  外交・安全保障  2019.03.05

AI時代のシンクタンク

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2019年2月28日)に掲載

 第2回米朝首脳会談の結果はどうせ見えている。されば、より重要と思うことを書きたい。先週、米サンフランシスコ郊外で人工知能(AI)とシンクタンクに関する興味深いフォーラムが開かれた。筆者の属するキヤノングローバル戦略研究所(CIGS)は、同会合を共催するとともに研究者を2人派遣した。ここでは彼らの報告を交えつつ、同会合の意義について説明しよう。

 同フォーラムのテーマは、①AIの政策的意味合い②AI問題とガバナンス③AIがシンクタンクや政策研究に与える影響-の3点だった。参加したのはハーバード大、ブルッキングス、カーネギー、米戦略国際問題研究所(CSIS)、英チャタムハウスを筆頭に、日米英独仏伊加韓など十数カ国のシンクタンク。CIGSからは第1セッションで情報科学の専門家、久野遼平研究員がスピーカーを、2日目には外交安保の専門家、辰巳由紀主任研究員がAIと政治・ガバナンスの議論でモデレーターを務めた。

 本会合の提唱者の問題意識は明快だ。AI技術の進歩により、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が既存のシンクタンク以上の政策分析をするようになった。要するに、シンクタンクが意味ある政策提言を続けるためにはAIとのコラボが不可欠というのだ。

 しかし、今回の会合ではAI技術者よりも政策専門家の方が多かったらしい。会合の性格上、各発言者を特定することは差し控えるが、特に第1セッションでは、米国からの参加者がAI技術で先端を行く中国に対する警戒感を隠さなかったという。これに対し、米国以外の参加者からは中国やロシアも巻き込んで今のうちにAIに関する国際規範を作る方向が望ましいとの発言が多く、米国と米国以外で温度差があったという。第1セッションでの久野研究員発言は次の通りだ。

● 日本の民間企業のAI・ビッグデータに関する期待は高く、従来のAIブームとは異なり、彼らのデータ管理法は現在急速に進化している。

● ただし、学術分野などにより文化が異なるため、シンクタンクが真にAIとコラボするためには、異分野間の境界を乗り越える必要がある。

● CIGSでは以前よりAI・ビッグデータにつき経済・社会に関わる分野横断的研究を続けてきたが、両者のコラボは容易ではなかった。

● しかし最近はビッグデータの外交安保政策への応用など、当初は思いも寄らなかった研究が可能になっている。

 今回両人から報告を受け思ったことが2つある。第1はAIをはじめとする先端技術のガバナンスをどうするかが今や中露などを除く西側世界共通の問題意識となりつつあることだ。外交安全保障の分野で分析・研究を続ける際にも、基本的なAI技術の理解や応用方法ぐらいは知っておくべきだと痛感した。

 第2は、AI分野では日本が意外に注目されていることだ。最近日本の動向は国際的に高く評価されており、今回会合中も、先日安倍晋三首相がダボス会議で「今年のG20ではデータ・ガバナンスの国際的ノルム(規準)につき話し合う」と述べたことを高く評価する声が上がったという。

 その関連では、某国のシンクタンクからプロジェクトの計画会合を日本で開くべくパートナーを探していると打診されるなど、多くの参加者が日本とのつながりを強化する足掛かりを探していると感じたそうだ。これまであまり認識はなかったが、日本は結構頑張っているのである。

 いずれにせよ、AI問題は実は深刻で、シンクタンク同士の国際的連携を強化し、これに全力で取り組む必要がある。こうした認識は会場全体で終始共有されたそうだ。これが世界のシンクタンクの進むべき方向性の一つなのだと確信させられた会合だった。