メディア掲載  グローバルエコノミー  2019.03.05

国連"小農" 宣言 (3)小農を利用する人たち

『週刊農林』第2374号(2月25日)掲載

 農地改革は地主制を解体する一方、多数の小地主を誕生させ農村を保守化した。平等な規模の小地主で構成された農村は、これに適合した組合員一人一票主義のJA農協によって組織され、保守党を支えた。保守党はこれに米価引上げで報いた。高米価のために高コストの零細農が滞留し兼業農家となった。多数の零細農によってJAの政治力は維持され、その本業ともいうべき兼業収入を預金としてJAバンクは発展した。JAが農家戸数の減少につながる構造改革に反対し、小農主義を唱えるのは当然だ。小農主義は、戦前は地主制と、戦後はJAと結びついた。奇しくも、地主階級もJAも、高関税と高米価を要求した。実現のための手段も、ともに米供給の制限・減少だった。

 食管制度が廃止された現在、戦前は陸軍省に反対された減反で、米価は維持されている。米の生産量は、1967年の1445万トンから2018年には778万トンに、水田は、減反開始時の1970年344万ヘクタールから247万ヘクタールに、減少した。減少する国内米需要に合わせて米価を維持しようとすると、米生産をどんどん減少させるしかない。JAはこの運動の先頭に立って旗を振る。2065年に人口8808万人、高齢化率38.4%となった時、日本の米生産や水田はどうなるのだろうか?

 水田は、土壌流出、地下水枯渇、塩害、連作障害などの問題がない、世界に冠たる"持続的農業"であるばかりか、水資源涵養、洪水防止などの多面的機能を持つ。その水田を潰す減反政策を半世紀を超えて続けようとするのは、国連"持続可能な開発目標"に反しないのだろうか?

 国連の小農宣言の背景に人口増加による食料不足を指摘する人もいる。2050年に世界の食料生産の60%増加が必要だという主張を聞くと大変そうだが、年率わずか1.4%の増加で実現できる。2000年から2016年にかけての平均伸び率で2050年を見通すと、米59%、小麦79%、大豆404%、トウモロコシ262%増加する。この主張自体フェイクだし、柳田國男が主張するように、小さい兼業農は食料生産向上に有害ですらある。

 柳田は、今のJAの前身である現実の協同(産業)組合を地主階級の組織だと批判する一方、peasantの貧困や差別の解消を謳った国連宣言と同様「組合運動の目的は貧困の除去である」とし、安い農業資材実現のための共同購入など協同組合の活用を積極的に説いた。その時、柳田が小農や協同組合に求めたのは、他者に依存しない自助の精神だった。小農を救済すべきだというのは甚だしく彼等を侮蔑する言葉だと言い、「何ぞ彼等をして自ら済わしめざる。自力、進歩協同相助これ、実に産業組合の大主眼なり」と主張する。

 しかし、協同組合の理念とは異なり、現実のJAは組織の利益のため組合員農家に高い資材を販売してきたし、今回の国連宣言の利用に見られるように政府の保護拡大を要求する組織となった。なにより、今の日本では、国連宣言や柳田が組合運動の目的とする貧困撲滅は達成されている。

 日本農業を滅ぼすもの。それは農業保護の仮面をかぶった小農主義ではないだろうか。