メディア掲載  グローバルエコノミー  2019.02.18

国連"小農" 宣言 (1)汚された宣言

『週刊農林』第2372号(2月5日)掲載

 最近、世界の潮流は大規模農業ではなくて小農尊重だという主張を聞く。

 JA農協の機関紙・日本農業新聞(2018年12月19日)は、国連で小農宣言が可決されたと報じ、社説で「世界の家族農家と農村で働く人々、それを支える協同組合にとって歴史的」で、「世界の潮流に背を向け、市場原理に染まる我が国の官邸農政の見直しを迫るもので」あり、政府に対し「宣言の意義を真摯に受け止め」「家族農業の振興策を食料・農業・農村基本計画の見直し論議に反映させ、具体的施策に落とし込む」よう求めている。

 しかし、これは甚だしい捏造だ。国連宣言の対象はpeasantである。その語義は、社会的地位が低い下層階級の貧しい農民で、特に中世封建時代または貧しい途上国にいる者である(メリアムーウェブスター)。ヨーロッパでは農奴だし、日本では戦前の貧しい小作人か水呑み百姓だ。今の先進国にはfarmerはいてもpeasantはいない。

 JAの主張は、peasantを規模が小さいだけの"小農"に、小農を"家族農業"に、二重にすり替え、国連宣言を家族農業保護だとでっち上げたものである。規模が小さいことはpeasantの条件だが、日本の豊かな兼業農家は小農でもpeasantではない。小農ではないアメリカの大規模農家も家族農業である。なにより、この宣言の中に家族農業"family farm"という言葉は一度も使われてない。

 国連宣言を読めば、それが対象とするpeasantとは、貧困、飢餓、不当な逮捕・勾留、拷問、裁判を受ける権利の否定、強制労働、人身売買、奴隷、農地の利用・保有の否定、不当または違法な追い立てや農地の没収などに、直面している、途上国の農民であることは明白である。

 国連宣言は、一人あたりの平均所得が30万円程度もない途上国でも、さらに"貧しく""差別され"ている農民の社会的・経済的・政治的地位の向上を要求するものだ。宣言に規定される救済措置が必要な農民は今の日本にはいない。昭和恐慌のとき生きるため娘を身売りしなければならなかった東北の農家は国連宣言の対象になるだろう。しかし、豊かな日本の平均所得以上を稼ぐ現在の農家も対象だと言われると、国連宣言を働きかけてきた人たちは卒倒するに違いない。

 アメリカでも半数の農家は販売額50万円以下の小農だが、農業を片手間に行うパートタイム・ファーマーであって貧しい下層のpeasantではない。JA関係者が彼らを訪問してpeasantだと呼んだら、銃口を向けられるかもしれない。欧米人も日本の小農を少し規模の大きな家庭菜園付の住宅に住む裕福な勤労者か年金生活者と呼ぶに違いない。

 また、アメリカでは大規模農家を含め農家の97%は家族農業である。豪州の1万ヘクタールの小麦農家も十勝や大潟村の大規模農家も家族農業である。逆に、"一人"で週末だけ農作業を行う日本の小農の多くは、"家族"農業ではないかもしれない。

 JAが国連宣言を歪曲するには隠された理由があるし、JAは国連宣言が求めていることとは逆のことを行ってきたのである。