メディア掲載  財政・社会保障制度  2019.01.08

診療報酬 自動調整を

毎日新聞【論点】(2018年12月29日)に掲載

 大きなリスクは共助で、小さなリスクは自助で――本来それが保険のあり方だ。重い疾病に自分がいつかかるかは誰も分からない。治療で家計が破綻したり、因窮したりするリスクを国民が皆で支え合って防ぐ。公的医療保険の最も重要な役割は、このようなリスクから国民を保護する機能にある。

 財務省の長期推計によると、国内総生産(GDP)に占める医療給付費の割合は2020年度は7%だが、60年度には9%へと2ポイント上昇する見通し。今のGDP560兆円で単純計算すると11兆円の増加となる。消費税1%分は約2.5兆円なので、医療費の膨張分をすべて消費増税でまかなうとすれば、さらに4.5%引き上げなければならないことを意味する。今、税率を2%上げるだけで景気や低所得層への影響が懸念されているが、そんなレベルではない。

 公的医療保険の役割を守りつつ、医療財政の持続可能性を高めるには給付や負担の「哲学」を見直す必要がある。これまで、診療報酬改定に伴う薬価引き下げによって医療費の伸びを抑制してきたが、いずれ限界となろう。財政再建を進めるには診療報酬を含む抜本的な改革が不可欠だ。

 では、どうするか。現在、窓口で自己負担する医療費は基本的に年齢で決まっている。しかし、「負担できる人が負担する」があるべき姿だ。そこで、負担割合を年齢別ではなく、応能負担に変える。例えば、年齢に関係なく自己負担は一律3割とし、マイナンバー制度などを利用して所得や資産に応じて自己負担の引き下げや、税制上の措置で負担を軽減する。

 医薬品は、治療への貢献度や有用性に応じて保険の適用範囲を見直すことも考えられる。例えば、自己負担の割合を、重い後遺症や死につながる疾病の薬はゼロ▽後発品が発売されていない薬は3割▽それ以外は7割――とする。医療・医薬品の情報を扱う「IQVIAソリューションズ ジャパン」のデータを使って分析すると、医薬品への保険給付を7800億円削減できるとの試算が出た。

 しかし、これでも効果は限定的だ。厚生労働省によると、16年度の医療費は42兆1400億円。うち患者の自己負担分は4兆8600億円で1割程度にとどまるからだ。仮に自己負担を2倍にしても、11兆円の増加は賄えない。

 年金額の伸びを物価や賃金の上昇率よりも低く抑える「マクロ経済スライド」と同様の自動調整メカニズムを後期高齢者医療制度(対象75歳以上)に導入することを提案したい。具体的には、診療報酬を現役世代の減少や平均余命の延びなどに合わせて調整する。40年間で「GDP比2ポイント抑制」を目指すなら、年0.05%の引き下げで済む。

 財政再建には抜本改革が不可欠だが、改革は医療機関など供給者ではなく、患者をいかに守るかという視点で考えなければならない。自己負担を引き上げると国民の負担は増すが、診療報酬を抑制するなら負担は増えない。自動調整メカニズムを導入すれば、治療への貢献度が認められる高額薬を保険適用から除外する必要性も薄れる。医療保険制度改革では、大きなリスクを救える形に制度を変えることが求められている。