メディア掲載 グローバルエコノミー 2018.12.17
年内に発効する環太平洋連携協定(TPP)を巡っては、誤った主張が多くの人に信じられてきた。米国により「全ての関税が撤廃される」「危険な遺伝子組み換え食品を食べさせられる」「国民皆保険制度が維持できなくなる」などだ。
合意内容が明らかになり、すべてフェイク(偽)と分かっている。関税自主権がなくなると主張されたが、世界貿易機関(WTO)によって、各国は品目ごとに合意した以上の関税は取れないことになっている。自由に設定できる関税自主権などどの国も持っていないことは、TPP交渉前から明らかだった。
今では足(根拠)のない「TPPお化け」の怖さを主張してきた人たちは隠れてしまった。恐れていた肝心の米国が、雇用の減少を懸念してTPPから脱退してしまった。米国の方が「TPPや日本が怖い」病にかかってしまった。
そもそも、TPPはどのような影響を持つのだろうか。
第一に他国市場に参入しやすくなる。日本の輸出業者は相手国の関税引き下げで輸出しやすくなる。公共事業などの政府調達も一層開放される。
日本の農業については、一定量の輸入枠の設定などにより米、麦、乳製品、砂糖は高関税を維持。牛肉などは関税を下げるが、それを帳消しにするような円安が2012年以降、起きている。農業にはほとんど影響が生じないのに、国内対策が講じられる。
第二はルールの設定、拡充だ。偽造品の取引防止など知的財産権の保護、投資に際しての技術移転要求の禁止、国有企業と海外企業間の同一の競争条件確保などで、WTO協定を上回る規律が導入された。皮肉だが、TPPから脱退したトランプ米政権が中国に対して課したい内容だ。
第三に、協定に入るとメリットがあるが、入らないとデメリットを受ける。TPPのような巨大な自由貿易協定(FTA)「メガFTA」では、参加したい国が増加する。既に韓国、台湾、フィリピン、タイ、英国などが関心を表明している。
日本と、日本市場での競争力低下を恐れた欧州連合(EU)との間で経済連携協定(EPA)が合意された。同様に米国が日本とFTA交渉に入りたい背景には、TPPや日欧EPAに参加するオーストラリア、カナダ、フランスなどの農産物は関税が下げられるので、これらに日本の農産物市場を奪われるのではないかという焦りがある。
日米交渉では、米国は日本にTPPを上回る農産物の関税引き下げなど厳しい姿勢で臨むと報道されている。しかしTPPが18年末、日欧EPAが19年2月にも発効する状況で、米国が日本にとって政治的に受け入れられない要求を突き付けると、交渉に時間ばかりかかってしまい米国産農産物は他国に比べてますます不利になる。
米国としては、とにかくTPP並みの水準で、しかもできる限り早期に日本と合意したいのである。時の利を得ているのは日本であることを忘れてはならない。