メディア掲載 財政・社会保障制度 2018.11.19
消費税率10%への引き上げによるショックを和らげるために、政府は飲食料品や新聞などに軽減税率を導入する方針である。さらに、キャッシュレス決済をした場合、1年間という期限付きで、増税(2%)分をポイントとして還元する案が浮上している。
キャッシュレス決済は、第4次産業革命でビッグデータの活用に向けた重要なプロセスだが、日本ではあまり普及していない。
経済産業省の資料によると、民間最終消費支出に占めるキャッシュレス決済額の割合(2016年)は20%にすぎない。08年の12%に比べれば格段に利用率が上がっているとはいえ、米国の41%、中国の55%、韓国の55%(いずれも15年)に比べて、半分以下の利用率だ。
増税後にキャッシュレス決済ならポイント還元が行われるということになれば、キャッシュレス決済を促進する起爆剤となる可能性はあるだろう。ただし、対象となるのがクレジツトカード決済のみでは、カードが持てない低所得者層が恩恵を受けられない。電子マネーやQRコードによるスマートフォン決済も対象となれば、Suicaやスマホの保有率から見ても、還元を受ける層はかなり広くなる。
問題は、軽減税率の導入やポイント還元などで税収が減少することだ。ポイント還元は一時的な税収減で済むが、軽減税率の影響は最も深刻だ。政府や財務省は高齢化で膨張する社会保障費の安定財源として消費税を念頭に置いてきたが、軽減税率の導入で、もはや消費税のみで社会保障費の伸びを賄うのは不可能となる。
筆者の試算では、19年10月に消費税率が10%になっても、財政の安定化には、消費税率を最終的に約30%まで引き上げる必要がある。これは軽減税率を導入しないケースでの簡易試算であり、軽減税率を導入すると約1兆円の税収が失われるため、最終的な消費税率は35%を超える。
資産課税の強化といった新たな財源を含め、消費税10%以降の社会保障や税制の在り方について、徹底的な議論が必要である。