メディア掲載  外交・安全保障  2018.11.09

通商交渉への影響懸念

毎日新聞【論点】(2018年10月31日)に掲載

 中間選挙の最大の争点はトランプ政権を信任するかどうかだ。判断基準は「米国第一」路線を継続すべきかどうかだ。トランプ政権は通商政策や不法移民の取り締まり強化、北朝鮮政策などで現路線の正当性を強調するだろう。結果が良ければあと6年、悪ければあと2年、トランプ政権は続く。

 日本政府としては、トランプ氏のパーソナリティーから来る「二面性」を踏まえて付き合っていくのがよいと思う。つまり、「強いアメリカ」のイメージを維持するために安全保障面では同盟国を非常に大事にする一方、通商問題では容赦しない姿勢のことだ。

 選挙結果によってトランプ氏が「信任を得た」と自信を付けた場合、影響が懸念されるのは、年明けにも始まる日米物品貿易協定(TAG)を巡る交渉だ。トランプ政権は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を離脱して2国間交渉路線に切り替え、同盟国にも手を抜かない姿勢で一貫しており、日本に対しても、自動車の輸入規制など、要求をさらに厳しくする可能性がある。

 北朝鮮政策は選挙結果に左右されることはあまりないと思うが、米朝首脳再会談がどうなるかは不透明だ。開催されれば、トランプ氏が北朝鮮の非核化に向けた「より具体的な行動」を求めることになるだろうが、金正恩朝鮮労働党委員長がどう応じるかは全く読めない。関心が核だけに向かい、短・中距離弾道ミサイルや拉致問題が置き去りにされれば、日本にとっては望ましくない結果となる。一方、北朝鮮が非核化と引き換えに在韓米軍の規模縮小を求めて米側が応じれば、在日米軍の質的な役割が大きくなる可能性があり、自衛隊との分担を巡る態勢の見直しに発展するかもしれない。

 選挙結果が思わしくなかった場合、トランプ政権はレームダック(死に体)化し、国内の関心は次期大統領選に向かう。次の政権はトランプ氏ほどの二面性があるとは考えられない。引き続き共和党政権であっても、ある程度は軌道修正が図られるだろうし、予測可能性は高くなるだろう。例えば、インディアナ州知事時代にTPPを支持していたペンス副大統領が共和党候補として次期大統領選に出馬すれば、米国のTPP復帰が現実味を帯びることになり、日本がその道筋を付けられるかどうかが重要になってくる。

 安倍晋三首相はトランプ氏との付き合い方を非常に上手に処理しているという印象を受ける。カナダのトルドー首相のように通商問題でトランプ氏からツイッターで口汚く罵倒されたことはなく、TAGも「自由貿易協定(FTA)」と名付けられずに済んでいる。6月の米朝首脳会談を巡っては、直前に安倍首相が訪米してトランプ氏にミサイル・拉致問題の進展を念押しした成果がなかったなどと批判されたこともあるが、トランプ政権になってから、安全保障面で日米関係に問題が起きているという話は耳にしない。中間選挙後は通商問題で日米間に多少の波が立ったとしても、今の安全保障政策を着実に継続することで乗り切れるのではないか。