メディア掲載  外交・安全保障  2018.10.23

安倍「長期政権」がスルーした安保ビジョン - 自国第一のアメリカ、不透明な北朝鮮問題、複雑化する中ロとの関係 国家安全保障戦略の見直しなしに新時代を乗り切れるか

Newsweek に掲載(2018年10月16日付)

 9月に自民党総裁に連続3選された安倍晋三首相は、今後3年の任期を務め上げると、明治維新以降で最長政権を維持した 日本の首相になる。残り3年で何を達成しようとするのか。日本が直面する経済や外交・安全保障での課題を考えると、本人が優先課題として掲げる憲法改正ではないという議論もある。しかし、改憲以外の分野でも、安倍首相を待ち受ける課題は簡単なものではない。

 北朝鮮だけをとってみても、拉致問題を抱える日本は米朝韓中ロの間で続く外交ゲームに関与できないままだ。日ロ関係で も、ウラジーミル・プーチン大統領の「前提条件なしの平和条約締結」という突然の提案に効果的な反応はできていない。

 日米関係も、通商問題で鉄鋼・アルミニウムへの課税を回避できず、新たな2国間貿易協定に向けた交渉に合意させられ るなど、あれだけエネルギーを傾注して構築したドナルド・トランプ大統領との「個人的関係」の効果に疑問が残る。さらに沖縄県知事選では、新しい米軍施設に反対する玉城デニー前衆院議員が圧勝したことで、普天間飛行場の辺野古移設が難航することがはっきりした。

 安倍首相は「地球儀俯瞰外交」「積極的平和主義」というコンセプトをてこに、オーストラリアやNATOとの防衛協力強化や、東南アジアやアフリカとの関係強化を進めてきた。残りの在任期間中、外交・安全保障分野では何を追求すべきだろうか。

 長く冷却していた日中関係については、今秋の首相訪中など首脳レベルでの往来が活発になりつつある。少なくともトラン プ政権の間は、アメリカとの関係で常に不確定要素が存在することを踏まえれば、残りの在任期間で自主外交の機会を広げる ことも選択肢に入ってくる。

 ただそのためには、13年に策定された国家安全保障戦略の見直しを検討する必要があったかもしれない。4~5年後までを 念頭に置く防衛計画の大綱と、その間の防衛装備調達の大枠を定める中期防衛力整備計画(中期防)は見直し作業が進んでお り、年末までに完了すると言われている。それは過去4~5年間の安全保障環境の変化を踏まえたものになるはずだ。

 とはいえ、新大綱・中期防の基礎となるべき国家安全保障戦略が5年前のままでは、新しい方向性を出すといっても限界がある。なぜ安全保障戦略の見直しに手を付けなかったのだろうか。

 いかにも3選を前提としたような作業を総裁選前に始めることはためらわれたのかもしれない。森友・加計問題への対応に追われ、安全保障戦略をじっくり考える時間がなかったのかもしれない。安倍政権発足後、政策決定プロセスで果たす役割が格段に強化された国家安全保障局(NSS)が、安全保障政策上の目標そのものは5年前から劇的に変化していないと判断したとしても不思議ではない。


「見直し」の議論はゼロ

 しかし、国際環境は5年前と比べて大きく変容しつつある。日本自身の安全保障政策を支える枠組みも、14年の集団的自衛 権行使をめぐる憲法解釈の変更とその後の平和安全保障法制で変化している。また、人工知能(AI)や無人機など、今後の戦いで大きな役割を果たすことになると思われる先端技術も飛躍的な進歩を遂げている。

 日本は人口・経済規模の縮小、社会保障費と債務返済による国家財政の圧迫という国内問題を抱えている。同盟国アメリカがむき出しの国益を前面に出した政策を展開し始めるなか、どう中国やロシアと渡り合い、不確実性が増す朝鮮半島情勢に対応 し、他の地域における安全保障や外交でプレゼンスを維持していくのか。こういった課題へのビジョンを示すためにも、国家安全保障戦略を見直すべきだったのではないだろうか。

 その意味で、今回の新大綱・中期防見直し前に、国家安全保障戦略が見直しの必要の有無すらオープンに議論されることが なかったのは残念である。