メディア掲載 外交・安全保障 2018.10.15
来る米朝首脳会談で最大の焦点は、北朝鮮の核をめぐり、ドナルド・トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が何らかの合意に達するかどうかだ。合意に達した場合、どのような内容になるだろうか。
4月27日に行われた南北首脳会談で金と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、朝鮮半島の非核化を目指すことで合意した。金は5月3日に中国の王毅(ワン・イー)外相と会談した際も、非核化に向けて努力すると繰り返している。
ただし、金の意図する「朝鮮半島の非核化」がどのようなものかは、不確かなままだ。アメリカでは多くの人が、北朝鮮は核兵器を手放すことと引き換えに、アメリカの「核の傘」を朝鮮半島から(そして北東アジアから)外すことを求めるとみている。
北朝鮮の核をめぐる米朝の合意は、日本にも大きな影響をもたらしかねない。例えば、アメリカにとって緊急の課題、すなわち北朝鮮が保有する核兵器の数とICBM(大陸間弾道ミサイル)の性能向上に関する内容にとどまり、生物化学兵器や短・中距離弾道ミサイルに言及しなければ、日本の安全保障は改善されないだろう。
北朝鮮が非核化と引き換えに韓国の駐留米軍の大幅削減を要求して、アメリカが応じれば、北東アジアにおける米軍のプレゼンスに甚大な影響をもたらし得る。その場合、日本とアメリカの間で、米軍と自衛隊の役割、使命、責任の分担について大々的な見直しに発展するかもしれない。
安倍に求められる「決断」
さらに、北朝鮮が核弾頭の廃棄など非核化への具体的な取り組みを始めることと引き換えに、経済的な見返りを提供していくという合意が結ばれた場合、日本は厄介な立場に置かれる可能性がある。
日本はこれまで、北朝鮮による日本人の拉致問題が進展しない限り、金政権との対話は始めないという立場を貫いている。従って、アメリカと韓国、中国、そしておそらくロシアが、経済制裁の一部緩和や経済支援など、より広範囲な関与へと前進する一方で、日本だけが北朝鮮への経済協力を拒むという図式になりかねない。
既に日本は、朝鮮戦争の休戦協定の当事者ではないという意味で、朝鮮半島の長期的な将来の議論の中心から外れている。さらに経済制裁をめぐる立場で他国と差が生じれば、朝鮮半島情勢が進展する一方で、日本は今以上に傍観者になりかねない。
3月に米朝首脳会談の開催が発表されて以来、関係国の間では、北朝鮮の核問題を解決するための外交努力が加速している。その中で「拉致問題が解決に向かうまで対話は始めない」というアプローチを固持する日本は、後れを取っているようだ。
安倍晋三首相も外交活動を強化している。4月中旬に訪米してトランプと会談した後、5月9日には東京で日中韓首脳会談のホストを務め、文と中国の李克強(リー・コーチアン)首相ともそれぞれ個別に会談した。
しかし、ほかの関係国は日本よりはるかに速いペースで進んでいるのだ。南北朝鮮の間だけでなく、アメリカと中国、中国と韓国の協議も加速しており、マイク・ポンペオ米国務長官は3月(当時の肩書はCIA長官)と5月に相次いで平壌を訪れ、金と会談している。
もちろん、日本の影響力が全くないわけではない。例えば、日本の民間部門の核燃料再処理技術は、北朝鮮の核施設の廃棄プロセスにおいてかなり有用だろう。しかし、そのような影響力を発揮する前提として、日本政府は拉致問題最優先という方針を修正する必要がある。
拉致問題に関する政府の立場を左右するような方針転換は、安倍にとって特に難しい決断となる。拉致問題に断固として立ち向かうという姿勢は、安倍が政治的に台頭したきっかけの1つだからだ。
しかし、安倍が決断できるかどうかによって、北朝鮮の非核化と、将来的には朝鮮半島統一に向けて、日本がどこまで影響力を振るえるかが決まるかもしれない。