メディア掲載  財政・社会保障制度  2018.08.29

【数字は語る】政府公表の予測は政策議論の土台 問われるその精度

週刊ダイヤモンド 2018年8月25日に掲載

 政府が公表する各種の予測は、政策議論や政策決定の土台となるものだ。それだけに予測の精度が問われる。財政再建計画や社会保障費の将来推計などに使われる、名目GDP(国内総生産)成長率の予測の精度について検証してみよう。

 内閣府の「国民経済計算」や「経済見通しと経済財政運営の基本的態度」等から、内閣府が予測した名目GDP成長率とその実績を比較してみよう。1998年度から2017年度までの20年の予測と実績を見ていくと、実績が予測を上回っているのは5回(2000年度、03年度、04年度、10年度、15年度)のみで、残りの15回は実績が予測を下回っている。すなわち、内閣府の成長率予測の的中率は25%でしかない。

 しかも、98年度から18年度までの成長率予測(名目GDP)の平均値は1.52%だが、98年度から17年度までの実績の平均値は0.15%しかなく、予測は実績の10倍もの値となっている。

 このような状況の中、内閣府の経済諮問会議は直近の予測(政府経済見通し)をベースとして、「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」)の最新版(7月版)を公表した。

 中長期試算では、高成長シナリオの「成長実現ケース」と低成長シナリオの「ベースラインケース」の二つのシナリオが存在するが、27年度の名目GDP成長率は、成長実現ケースで3.5%、ベースラインケースで1.6%である。98年度から17年度までで、名目GDP成長率の平均値は0.15%しかないにもかかわらず、低成長シナリオでも名目GDP成長率を1.6%と設定している。

 政府の借金が1000兆円超も存在する厳しい財政事情の中、このような楽観的な成長率の前提で、本当に適切な財政再建計画を検討できるのだろうか。

 専門的な有識者会議を立ち上げ、予測と実績の乖離に関する精度を検証したり改善方法を検討したりする必要があることは言うまでもない。予測と実績の乖離を直視し、楽観的な成長率の前提に依存することなく、慎重かつ適切な財政再建計画の検討を期待したい。