メディア掲載 財政・社会保障制度 2018.08.24
少子高齢化や人口減少が急速に進むなか、社会保障費の増加や恒常化する財政赤字で日本財政は厳しい。税や保険料等で賄う社会保障給付費(医療・介護・年金等)は現在概ね120兆円だが、内閣府等の推計(2040年を見据えた社会保障の将来見通し)によると、2018年度に対GDP比で21.5%であった社会保障給付費(年金・医療・介護等)は、医療費・介護費を中心に2040年度には約24%に増加する。
現在のGDP(約550兆円)の感覚でいうと、この2.5%ポイントの増加は約14兆円(消費税換算で6%弱)に相当する。また、財務省「我が国の財政に関する長期推計(改訂版)」(2018年4月6日)では、2020年度に約9%の医療・介護費(対GDP比)は、2060年度に約14%に上昇する。すなわち、40年間で医療費等は約5%ポイント上昇し、この増加は現在のGDPの感覚で約28兆円(消費税換算で約11%)にも相当する。
だが、財政は表面的な問題であり、問題の本質は別にある。そのうちもっとも大きな問題のひとつは、貧困高齢者の急増である。たとえば、2015年で65歳以上の高齢者は約3380万人いたが、そのうち2.9%の約97万人が生活保護の受給者であった。すなわち、100人の高齢者のうち3人が生活保護を受ける貧困高齢者だ。
1996年では、約1900万人の高齢者のうち、1.5%の約29万人しか生活保護を受給していなかったので、貧困高齢者は毎年3.5万人の勢いで増え、20年間で約70万人も増加したことを意味する。
高齢者の貧困化が進んでいる背景には、低年金・無年金が関係していることは明らかだが、50歳代の約5割が年金未納であり、今後も増加する可能性が高い。
では、今後、貧困高齢者はどう推移するのか。正確な予測は難しいため、一定の前提を置き、簡易推計を行ってみよう。まずひとつは「高リスクケース」である。65歳以上高齢者の「保護率」(65歳以上人口のうち生活保護の受給者が占める割合)は、1996年の1.5%から2015年で2.9%に上昇しており、その上昇トレンドが今後も継続するというケースである。もうひとつのケースは「低リスクケース」で、65歳以上高齢者の「保護率」が2015年の値と変わらずに一定で推移するというケースである。
以上の前提の下で、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(2017年推計、出生中位・死亡中位)を利用し、65歳以上の被保護人員(生活保護を受給する高齢者)を予測したものが、以下の図表である。
低リスクケースでは、65歳以上の被保護人員は、2015年の約97万人から2050年に約110万人に微増するだけだが、高リスクケースでは2048年に2倍超の200万人を突破し、2065年には215万人にも急増する。2065年の65歳以上人口は約3380万人であるから、215万人は6.4%で、100人の高齢者のうち6人が生活保護を受けている状況を意味する。
では、生活保護費の総額はどう推移するか。2017年度における生活保護費の総額は約3.8兆円で、約214万人が生活保護を受給している。1人当たり平均の生活保護受給額(名目)が一定で変わらないという前提の下、既述の「高リスクケース」と「低リスクケース」で生活保護費の総額を簡易推計したものについても図表に描いている。
低リスクケースでは2025年頃までは概ね4兆円弱であるものの、それ以降では緩やかに減少し、2065年には2.9兆円になる。だが、高リスクケースでは、2029年に5兆円を突破し、2067年には6.7兆円にまで増加する。
貧困高齢者の問題がこれから深刻さを増すのは明らかだが、現行の社会保障で本当に対応することができるのか。社会保障財政の持続可能性を高めるためには安定財源が必要であることはいうまでもないが、すでにさまざまな「綻び」が顕在化しつつあるなか、生活保護のあり方を含め、「社会保障の新たな哲学」についても検討を深める必要があろう。
貧困高齢者数の予測と生活保護費の簡易推計
(出所)厚労省「被保護者調査」の予測等から筆者推計