レポート グローバルエコノミー 2018.06.26
キヤノングローバル戦略研究所の山下研究主幹が、「21世紀に蘇る柳田國男の農政学」というテーマにて、講演をおこないました。これは同講演会の「講演要旨」です。
柳田國男は日本民俗学の父として知られている。その柳田は、「何故に農民は貧なりや」という問題意識の下、東京帝国大学法科大学で農業経済学を研究し、卒業後農商務省に入省し、農政に関するいくつかの著作を世に問うた。この中で、彼は、零細農耕性や高米価による保護という日本の農業や農政の問題点を指摘し、抜本的な構造改革案を打ち出した。
これは、後に彼の著作を神田の古本屋で発見した、シュンペーターの高弟・東畑精一が、"日本経済思想史上の一つの奇跡"と呼んだほど、先進的な構想だった。しかし、その思想はあまりに時代の水準を超えていたのみならず、農業界を支配していた地主階級の利益と真向うから対立するものであったため、時の体制や学会に葬られた。こうして彼自身が農政学から民俗学に移っていったのみならず、彼の志を継ぐ俊秀たちも、やがて農業界からさえ忘れられた。
しかし、柳田の思考は様々な課題を抱える現在の農政にも活用できる。戦後の農地改革を経て、地主階級に代わり農業界を支配するようになった勢力が、地主階級と同じような主張をするようになったため、柳田の時代から存在する問題の根本が解決されていないのである。
もとより百年前の考え方がそのまま適用できるものではない。我々は"柳田を通じて、されど柳田を超えて"いかなければならない。そのような農政改革とは、どのようなものであるのか?これを検討したい。