メディア掲載 財政・社会保障制度 2018.05.25
2025年に団塊の世代が全て75歳以上となり、高齢化が一段と進む。厚生労働省の推計では、15年度に約50兆円だった医療・介護費は、25年度に約75兆円に膨らむと予測されている。国と地方の借金が計1000兆円を超える中、医療・介護の財政的な持続可能性が問われている。
医療費は診療報酬で決められており、4月に改定された。改定には国や健康保険組合などの保険者、日本医師会、病院団体など様々な関係者が関わる。政治力の強い団体の意見が通ったり、与野党の政争の具になったりして必要な改革が進まない恐れもある。そうした政治的対立を回避し、医療・介護の持続可能性を高める方策はないだろうか。
ヒントはある。04年の年金改革で導入した「マクロ経済スライド」という仕組みである。年金は基本的に現役世代の負担で老齢世代の給付を支える方式になっているが、マクロ経済スライドは、現役世代の人口減や平均余命の伸びなど、その時の社会情勢に合わせて、年金の給付水準を自動調整して現役世代の負担増を抑制する役割を担う。これによって年金制度の安定性は大いに高まった。
これに対し、現在のところ医療や介護には自動調整メカニズムはない。医療・介護のコストは老齢期に集中し、現役世代が負担する傾向が強いため、医療・介護の財政構造も年金のそれに近い。医療や介護でも、マクロ経済スライド的な仕組みを導入できるはずだ。
例えば、75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度で、診療報酬に自動調整メカニズムを導入し、現役世代の人口減や平均余命の伸び等を勘案した調整率を定め、その分だけ、総額の伸びを抑制してはどうか。具体的には、診療行為別に定めている診療報酬点数(1点10円)を、調整率の分だけ引き下げるのである。仮に調整率が1%なら、診療報酬点数が100点(1000円)の医療行為は99点(990円)になる計算だ。
実際には、調整率は、それほど高くならないと考えられる。財務省の財政制度等審議会が公表した「我が国の財政に関する長期推計」(15年)によると、医療・介護費の対GDP(国内総生産)比率は、20年度頃の約10%から、60年度頃には約16%に上昇する。40年間で約6ポイント上昇し、1年間の上昇は平均0.15ポイントとなることから、上昇分を抑制するための調整率は0.15%程度にとどまる。
もっとも、医療機関や介護業者などの経営に及ぼす中長期的な影響にも注意が必要だ。その影響分は、例えば、公的医療保険の一部を民間医療保険でも代替できるようにして、民間保険で補える環境整備で対応できるのではないか。風邪など軽度の医療や、矯正歯科など保険外の医療を賄う民間保険を作るのも一案だ。
いずれにしても、団塊の世代が75歳以上となる25年に向けて、医療・介護費が増えるのは確実だ。財政の持続可能性を高めるため、医療・介護でも費用を自動調整する仕組みの導入を検討してみてはどうか。