メディア掲載  外交・安全保障  2018.02.08

イージス 地元に丁寧に説明を

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2018年2月1日)に掲載

 「地元に説明しないまま導入を進めようとする政府の姿勢は言語道断である!」

 山口と秋田で配備が検討される地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」について、某保守系元衆院議員がこう批判したそうだ。

 確かに地元の関心は高い。たまたま今年に入り、山口と秋田で何度か講演する機会に恵まれたが、この問題は質疑応答で必ず聞かれるテーマだった。地元の懸念はこうだ。


●そもそも、どんな施設ができるのか、不安である

●子供がいるので、目に見えない強力な電磁波が怖い

●同システム配備で地元が北朝鮮ミサイルの標的になる

●米国の兵器システムだから日本人は操作できない

●同システムは迎撃だけでなく攻撃もできると聞いた

●山口県萩市とは違い、秋田市は人口密集地である

●いずれにせよ、地元への事前の説明がなく遺憾だ


 地元の懸念を過小評価するつもりはない。だが、これらの批判の多くは事実に基づかない誤解と思われる。軍事専門家ではない筆者が理解するイージス・アショアの実態とはおおよそ次の通りだ。


●イージスは迎撃システム イージスとは、高度情報処理型誘導能力により日本を攻撃するミサイルを迎撃するシステムだ。200を超える目標ミサイルを同時に追尾、10個以上を迎撃できるという。使用されるフェーズドアレイレーダーは、旧来の回転式ではなく、侵入するミサイルの方向のみにビーム走査が可能なため、迎撃精度が飛躍的に高まっているそうだ。

●電磁波は危険なのか イージスのレーダーは前述の通り指向性が高く目標に照射するビームの量が少ないので、放出される電磁波も従来型よりはるかに少ない。人体に悪影響があるなら、そもそも採用されなかっただろう。

●北は山口・秋田を狙うのか 可能性ゼロではないが最初に狙うだろうか、筆者はいつもこう答える。理由は簡単。北朝鮮が日米韓に対し一発でもミサイルを発射すれば、その時点で第2次朝鮮戦争が始まり、総攻撃を受けて北朝鮮は崩壊する。つまり北朝鮮はミサイルをそう何発も撃てないのだ。されば北が最初の攻撃でイージス・アショアを狙うとは思えない。他の目標を狙った方が効果は大きいのだ。そもそも、イージス・アショアを狙って飛んでくるミサイルほど迎撃しやすいものはない。山口や秋田が北の最初の攻撃目標になる可能性は低い。

●イージスは日本人が運用する 米国の兵器システムであり米軍との緊密な連携が必要なことは事実だが、イージスの運用はあくまで自衛隊・日本政府の判断で行われる。

●イージスは攻撃できるのか イージス艦には、さまざまな能力があり、ミサイル迎撃以外にも一定の攻撃は可能。他方、イージス・アショアは目標捕捉・迎撃誘導能力の高いレーダーと迎撃ミサイルを中心とする防衛システムだ。それ自体に北朝鮮を攻撃する能力があるとは思えない。

●住宅地に近いから危険か 秋田市の候補地が住宅地に近いのは事実だが、前述の通り、同地が攻撃される可能性が低く、日本海側に照射されるビームが生む電磁波も少ないことも考慮すべきだろう。


 やはり最大の問題は地元への説明だ。内容はもちろんだが、重要なのはそのタイミングである。国家安全保障事項だから、全て公開というわけにもいかない。この種のシステム配備には予算、調達、部隊編成など多くの準備が必要だが、最初の公式説明先は通常、地方公共団体の首長だろう。地元国会議員にもいずれ説明は必要だが、現職ならともかく元議員へ事前説明は難しい。

 今後とも地元の懸念を払拭しつつ、国民が日本防衛のためこの種の防衛システムを受け入れてくれる「地元」を「日本の誇り」と思えるような丁寧な説明が望まれる。