ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2017.10.26

ワーキング・ペーパー(17-010E) 「A macroeconomic model of liquidity crises」

本稿はワーキング・ペーパーです

 本論文の目的は、流動性危機の起こるメカニズムを理論的に分析するとともに、シミュレーション分析を通じて、特に2000年代後半のアメリカの不況、いわゆるGreat Recessionについての理解を深めることにある。流動性危機とは、資産市場において短期的な流動性資金の供給が(急激に)枯渇することであるが、多くの論者により、2008年9月のリーマンショック後のアメリカの資産市場で起こったことがまさに流動性危機であり、それが、その後の戦後最大とされる不況、Great Recessionを誘発した原因とみなされている。流動性危機が深刻な不況をもたらすのは、多くの企業にとって、短期資金の借り入れが円滑にできることが、その活動にとって非常に重要であるからである。本論文では、企業による短期的な流動性資産の借り入れ需要が生じるマクロ経済モデルを用いて、以下のようなメカニズムで流動性危機が生じることを示した。まず、ある企業が業績不振で倒産したとしよう。それは、その企業に長期的に貸出を行っている銀行の倒産につながりうる。すると、それらの銀行から短期的な資金の借入を行っている別な企業の破綻、さらに、それらの企業へ長期的な貸出を行っている別な銀行の破綻、というように、短期資金の供給の枯渇を原因として、企業と銀行の連鎖的な倒産が起こりうるのである。続いて、我々のモデルを数値的に解析し、それを用いて、米国のGreat Recessionにおける、実質GDP、TFP(生産性の指標)、labor wedge(労働市場の歪みの指標)などをうまく説明できることを示した。