メディア掲載  財政・社会保障制度  2017.10.25

「所得連動型」奨学金の拡充で、高等教育負担の問題に対応せよ

 教育予算の改革について、以下の記事があった。

・9月16日付日本経済新聞記事『教育費軽減 対象校を選別 政府案、社会貢献など指標化』

<大学などに通う学生と親の教育費負担を軽くする構想について、政府内で対象となる大学を絞り込む案が浮上している。(略)政府の有識者会議である「人生100年時代構想会議」で来月から詳細な制度設計を議論し、年内に中間報告をまとめる。支援する大学の範囲や支援内容と並行し、多額の財源をどのように手当てするかも議論することにしており、政府・与党内では教育国債などの案が出ている。具体的な教育費の軽減策としては、返済不要の給付型奨学金を拡充したり、授業料の減免制度を広げたりといった案が検討課題だ。オーストラリアのHECS(高等教育拠出金制度)をモデルに学費の出世払い方式を新たに導入することも選択肢になっている。学生とその親の負担を国が公費(税)で肩代わりすることになるため、政府は厳しい審査基準を設けて対象の大学などを選別する。(以下、略)>

 上記の記事を含め、教育予算の改革にはいくつかの論点があり、以下で簡単な整理をしてみよう。

 まず、そもそも論として、「今なぜ、教育予算の改革が必要なのか」という視点を明確にする必要がある。たとえば、日本国憲法は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」(第26条第1項)と定めており、低所得世帯の子どもで4年制大学に進学したいと思っているにもかかわらず、家庭環境が原因で進学できない実態があるとするならば問題であり、どのような国民も、高等教育を受けることができる機会均等を図ることは極めて重要である。

 この関係では、東京大学大学院教育学研究科/大学経営・政策研究センター「高校生の進路追跡調査/第1次報告書」(2007年)が参考となる。この報告書によると、年収が1000万円超の世帯における4年制大学進学率は62.4%である一方、年収が600万円~800万円の世帯では49.4%に低下し、年収が400万円以下の世代では31.4%にまで低下してしまう。

 このような問題が発生する主な理由は、いわゆる「流動性制約」に家計が直面してしまうためである。一般的に、大卒と高卒では生涯賃金(平均)で5000万円以上も差があるといわれており、4年制大学に進学できれば、大学4年間の授業料の10倍以上の私的な限界便益を得ることができる。このため、大学4年間の授業料や生活費をローンで一時的に借りることができれば、十分な見返りを得ることができ、卒業後の収入でローンの返済もできるはずである。しかしながら、現実には、家計が資金を借り入れようとする場合、貯蓄をするときの利子率よりも高い利子率に直面せざるを得ないことや、一般的に借り入れは貯蓄よりも難しいため、まったく借り入れができないこともある。

 このような資金繰り制約が存在する状況を「流動性制約」というが、教育分野でこの問題解決に重要な政策手段となるのは「奨学金」である。しかし、奨学金にも完全にリスクがないわけではない。日本学生支援機構の調査によると、奨学金を借りたものの、就職の失敗や低賃金で返済が難しくなり、給料の差し押さえ等の強制執行まで進むケースが急増している(05年度4件→15年度 約500件)。



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