メディア掲載  外交・安全保障  2017.09.25

迎撃で高まる抑止効果

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2017年9月14日)に掲載

 今月3日、北朝鮮が再び核実験を強行した。先代の金正日時代は3年間隔だったが、正恩時代は間隔が短くなり既に4回目。明らかに計画は加速しつつある。彼は何を焦っているのか。

 最近、北朝鮮ウオッチャーのコメントがパターン化してきた。例えばこんな具合だ。


●次の××記念日前後にICBM(大陸間弾道ミサイル)発射か核実験がある。

●北朝鮮が核兵器開発計画を断念することは絶対にない。

●圧力による解決は不可能、今こそ対話を考えるべし。



 筆者の見立てはちょっと違う。北は長期計画の技術的所要に基づき実験を続けている▽記念日のためにミサイルを発射しているわけではない▽核開発凍結のための対話はいずれも失敗してきた▽まずは圧力を加え、核開発断念の対話を模索すべきだ。

 要するに、北朝鮮の動きに一喜一憂する必要はないということ。残念ながら、従来の経済制裁の効果は限定的だった。今回採択された決議では米国が当初望んだ「原油・石油精製品の全面禁輸」などが大幅に後退している。今後も中露、特に中国は北朝鮮を直撃する制裁強化には賛成しないだろう。北の核ICBM開発が完成するまで、この種のイタチごっこは続く。制裁強化のカギは中露が握っているが、両国の本音は微妙に異なる。ロシアにとってはクリミア事件による経済制裁解除に向けた対米戦術の一環でもあるが、中国にとって北朝鮮は自国の安全保障に直結する大問題。10月に党大会を控える中国が、米国の圧力に屈するわけにはいかないのだ。

 では、いかに北朝鮮に対する圧力を強化するのか。ポイントは核兵器保持が北朝鮮の国家存続にとって有害であることを金正恩朝鮮労働党委員長に自覚させること。そのためには政治、経済、軍事などあらゆる分野で北朝鮮の体制継続を困難にするレベルの圧力が必要だ。北朝鮮に核開発を断念する兆候がない以上、米朝間の折衝には限界がある。ここでもカギは中国が握っている。中国には、北朝鮮の核兵器が既に中国の国益を害しつつあり、このままでは中国の安全保障すら危うくなることを理解させる必要がある。

 それでも、経済的圧力には限界がある。されば、誰も考えたくはないが、軍事的圧力についても新たな思考が必要となるだろう。日本は、日米韓連携を維持しつつ、中露を分断するとともに、有事に対する日本社会の強靱(きょうじん)性を高める必要があるが、それ以外にもやれることはある。

 筆者の尊敬する数少ない米国人北朝鮮専門家の一人が最近興味深い提案を行った。その要旨をご紹介しよう。


●対北朝鮮先制攻撃は、韓米日に多くの死傷者を生むばかりか、核戦争の危険も伴う。

●今こそ米国は、北朝鮮のミサイルを迎撃するという選択肢を改めて検討すべきだ。

●米国は、北朝鮮によるすべてのミサイル発射を米国に対する直接の脅威と宣言する。

●迎撃は正当な自衛行為であり、仮に失敗しても米国の強い決意を示すことができる。



 同案のポイントは、ミサイル迎撃が武力行使でありながら、自衛権行使の側面が強いため、北朝鮮が全面戦争に踏み切る可能性は低く、北の核兵器の抑止力を大幅に減殺する効果が期待できることだ。

 もちろん、同案には法的に詰めるべき点が少なくない。米国で正当化できても、日本が同様の手段を用いることは現行法上難しいだろう。しかし、北朝鮮が依存するのは「核ミサイル」の抑止力だ。これがことごとく迎撃されるとなれば、金正恩氏は核保有が自国の安全保障に逆効果となることを悟るかもしれない。日本は専守自衛の手段として配備してきたミサイル防衛をより能動的に運用する。強い意志を目に見える形で北朝鮮に示すだけでも、抑止効果は大いに高まるだろう。