メディア掲載  財政・社会保障制度  2017.09.11

道州制を含む地方分権に向けた国土形成計画の新たな役割と「地方庁」構想

 本コラムの目的は、(広域地方計画を含む)国土形成計画やその基盤となる「地方庁」(仮称)の創設を提言することにある。人口減少や少子高齢化が進み、政治の役割は「負の分配」に転換した。にもかかわらず、政治はこれに対応できず、機能不全に陥りつつあり、閉塞感に包まれている。道州制を含む地方分権が政治的な調整コストの分散化や改革の原動力となるとの仮説に基づき、やや大胆な試みだが、論じていく。

 まず、経済のグローバル化や人口減少・少子高齢化が進む中、日本が直面している課題を簡潔に整理してみよう。そもそも、日本が抱える大きな課題は3つある。



人口減少、地方消滅、そして...

 第1は、急速に進む「人口減少」である。人口減少は「静かな有事」といっても過言ではない。国立社会保障人口問題研究所の「将来人口推計」(平成29年版、出生中位・死亡中位)によると、人口減少のスピードは今後勢いを増していく。2017年の人口減少率は年率0.24%に過ぎないが、2025年は0.50%、40年は0.79%、60年には1%となる。

 「減少率」で見ると大きな減少に見えないものの、「減少数」で把握すると印象が異なる。2025年の人口減少数は62万人、40年は88万人、60年は94万人という予測である。62万人という減少数は、現在の東京都江戸川区の人口に近く、94万人は現在の千葉県千葉市の人口(約96万人)や東京都世田谷区(約90万人)に近い。時間の経過に伴い、人口減少や労働人口減少の影響は大きくなる。なお、第3次ベビー・ブームは起こらなかったという現実も直視する必要がある。

 第2は、空間的な側面での「地方消滅」である。国土交通省が2014年7月に公表した「国土のグランドデザイン2050~対流促進型国土の形成~」は、2050年の人口が2010年と比較して半分以下となる地点(全国を「1km2毎の地点」で見る)が、現在の居住地域の約6割を占めること(うち約2割が誰も住まない地域となる可能性がある)を明らかにした(図表1)。

 これを「市区町村の人口規模別」に見ると、人口規模が小さい地域ほど人口減少率が大きく、現在の人口が1 万人未満の市区町村は人口が約半分に減少する。その結果、人口規模が小さい地方ほど財政基盤が危機に直面する可能性が高い。この関係では、増田寛也元総務相が座長を務める日本創成会議・人口減少問題検討分科会が、地方から都市への人口移動が継続する場合、市区町村の49.8%が「消滅する可能性がある」との試算を公表している。

 第3は、「財政問題」である。高齢化の進展で社会保障費は膨張し、日本の財政赤字は拡大する傾向にある。2003 年度の社会保障給付費は約84 兆円であったが、高齢化の進展により、2013 年度は約110 兆円となった。これはGDP の約2 割に相当する金額である。2016年度の社会保障給付費(予算ベース)は約118兆円であるものの、2003年度から13年度における10 年間において、年平均の社会保障給付費は2.6 兆円程度のスピードで膨張してきている。

 団塊の世代がすべて75 歳以上となる2025 年に向けて、社会保障費増の圧力が一層強まる可能性が高い。増税を含む財政再建や社会保障の抜本改革を行う必要があるが、その政治的な調整コストが大きく、なかなか改革は進まない。


図表1

 
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 (出所)国土交通省(2014)「国土のグランドデザイン2050」から抜粋

政治・行政は「効率性」が不得意

 このような状況の中で、政治の役割も大きく転換している。そもそも、「政治」と「経済」は「対」をなすもので、その根幹的な概念である「民主主義」と「資本主義」は車の両輪である。すなわち、経済(資本主義)は「成長」を促進し、政治(民主主義)は「分配」を担う。

 資本主義(経済)は、富が富を生む形で格差を生み出す。民主主義(政治)は成長を促進するために一定程度の格差拡大を許容するものの、それが行き過ぎるならば、格差を是正する役割を担うのが一般的な姿であろう。このため、従来型の政治の役割は、格差に配慮しつつ、成長と分配の狭間で、その「重心」を探すことにあった。

 人口が増加し高成長の時代には、政治は、成長で増えた富の配分を担うことで大きな力を発揮した。人口減少で低成長の時代に突入して以降、政治の役割は「正の分配から負の分配」に急速に変わりつつあるものの、それに対応できず機能不全に陥りつつある。

 この理由は何か。まず、経済の中核を担う市場が「効率性」を得意な領域とする一方で、政治や行政は「公平性」を得意な領域とする。例えば、人口増の経済では、都市が過密となってスプロール化しても、新たに発生した課題や利害調整を地域経済の果実で局所的に対応することができる。ところが人口減の経済では、低成長のため、分配する原資も枯渇しつつあり、そのような部分最適のアプローチで解決することは難しい。

 また、人口が増加し高成長の時代は、効率性の視点から、国民所得倍増計画で太平洋ベルト地帯構想を中心とする産業の適正配置を促進する。その一方、成長で増えた富の一部を分配の原資とし、公平性の視点から、全国総合開発計画で後進地域に対する投資を重視する政治的な姿勢を示すことができた。こうした措置も人口が減少し低成長の現状では難しい。

 すなわち、「公平性vs効率性」の視点で見ると、人口が増加する経済ならば、政治や行政は「公平性」を優先した政策や解決策を模索できる。ところが、人口が減少する経済では、部分最適を図ることが難しいため、全体最適のアプローチで、柔軟な発想とスピード感をもち選択と集中を行いながら、「効率性」に重点を置いた政策や解決策が要求される。

 「公平性」は政治や行政が得意な領域だが、「効率性」は不得意な領域。硬直した「議会制民主主義」にあっては、喫緊の課題が生じても利害調整に手間取り、結局、「改革先送り」となる傾向が強くなってしまう。人口減の経済はそのリスクをまともに被るだけに改革が足踏みする。政治や行政が中長期的な視野で、効率性を追求できる仕組みが求められる。

 しかも、人口増で高成長の時代ならば、例えば政策決定過程における視野が短期的なものにとどまるなどの原因でミスが起こっても、資源配分の失敗を取り戻す余力があるが、人口減で低成長の時代では政策決定のミスが致命的となる可能性が高まる。その代表が現下の厳しい財政である。社会保障費の急増や恒常化する財政赤字により、200%超にも及ぶ公的債務残高(対GDP)は今後も膨張する見込みである。



地方分権と国土形成計画の新たな役割

 では、我々はどう対処すればよいのか。そのヒントは過去の政策議論の中に既に存在している。選択と集中を行うための枠組みを構築、すなわち、道州制を含む地方分権を一段と強化するしかない。

 中央省庁再編・経済財政諮問会議の創設を含む首相のリーダーシップ機能の強化や選挙制度改革、様々な規制改革などが日本の政治の姿を徐々に変えてきたのは事実だ。急速な人口減少や少子高齢化が進む中、集権化と分権化の選別を行い、中央省庁が担う政治的な調整コストの一部を分散化する地方分権を実現することが残された大きなテーマであることも事実であろう。

 にもかかわらず、地方分権は常に「総論賛成・各論反対」で中途半端なものになってしまう。その理由は、体力の弱い自治体を含め、地方分権の受け皿となる移行スキームや移行組織が存在しないからだ。筆者は、そのカギを握るのが「国土形成計画」「広域地方計画」や「地方庁」(仮称)などではないか、と考えている。以下、順番に説明しよう。

 まず、(広域地方計画を含む)国土形成計画である。空間面での選択と集中という視点では、例えば、「コンパクトシティ」「ネットワーク」という試みが存在する。この試みは、国土交通省「国土のグランドデザイン2050」に既に盛り込まれている。「地方都市においては、地域の活力を維持するとともに、医療・福祉・商業などの生活機能を確保し、高齢者が安心して暮らせるよう、地域公共交通と連携して、コンパクトなまちづくりを進めることが重要」だと記載されている。すなわち、「コンパクトシティ+ネットワーク」構想である。

 もっとも、この構想は集約エリアを指定するプロセスが不透明であり、他の施策との整合性を欠いているとの指摘も多い。このため、政府は、各省庁の縦割りを排除すべく「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長・安倍総理、全閣僚参加)を2014年9月に立ち上げた。また、国土交通省は2014年、厚生労働省が進める地域包括ケアを視野に、都市計画で「立地適正化計画」を導入している。

 ただ、人口集約施策の総合調整を強化するには選択と集中を図る選別基準が不可欠だ。国土形成計画法を改正し、「広域地方計画」(複数の都府県にまたがる広域ブロックごとに国と都府県などが相互に連携・協力して策定するもの)において、集約エリアを指定したり、選択と集中の数値目標を定めたりすることも重要である。

 かつての国土政策は、全国総合開発計画などによる「国土の均衡ある発展」をスローガンとし、都市から地方への再分配を様々な形で実施してきた。その後、地域開発を主導するこれらの法律はその役割を終了。国土総合開発法は2005年、国土形成計画法に改正された。現在は国土形成計画が定める「全国計画」(2015年閣議決定)や「広域地方計画」により、数値目標がない形で国土政策(2015~25年までの計画)が進められている。急速に人口減少・超高齢化が進む今こそ、空間選択や時間軸の重要性が増しており、縮減時代の国土政策のあり方が問われている。

 すなわち、人口集約施策の総合調整を強化し、集約エリアの指定や、選択と集中の数値目標を定めるため、「国土形成計画」や「広域地方計画」を利用する試みが重要となってくる。

 なお、人口が減少し消滅の危機に直面する自治体が多い状況では、全国の隅々までインフラを整備・維持し、フルセットの行政サービスを提供するという発想は捨て、「基礎的自治体」(国の行政区画の最小単位である市町村)のスリム化を図ることが必要だ。また、いまの自治体を念頭に置いた地方分権一辺倒でなく、道州制への移行も視野に置き、政策によっては中核都市・広域自治体や国に権限を集中させる試みも重要となってくるはずである。すなわち、分権化と集権化の「重心」を探す必要がある。



 

道州制移行の受け皿としての地方庁

 では、「国土形成計画」や「広域地方計画」で、集約エリアの指定や選択と集中の数値目標をどのように定めるのか。その決定や道州制移行の受け皿となる機関が「地方庁」(仮称)である。

 筆者の提案では、地方庁は、各エリアの地方自治体のほか、各省庁の地方支分部局も束ねる機関で、企業でいうならば「持ち株会社」のような存在として設置する。道州制への移行も視野として、各エリアに地方庁を新設し、各地方庁にはそのエリアの知事と地方長官で構成する「コミッティー」を設置する。道州制への移行に際しては、都道府県の廃止は前提にしない。不要な政治的混乱を回避するためだ。

 地方庁はむしろ、いまの「広域地方計画協議会」を拡充・機能強化するものだ。各省庁の利害が対立するのを回避するため、地方長官は各省庁の持ち回りとする。その際、地方庁は、中央省庁における内閣府と同様、各エリアにおける各地方自治体や各省庁の政策に関する総合調整を担う機関に位置付ける。このため、地方庁のコミッティーは、国の経済財政諮問会議に相当するものとなる。各エリアの知事からの提案を、地方長官が総合調整し、取りまとめる形で広域地方計画を定める。


図表2

 
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 (出所)筆者作成

 地方庁に対して、「国と地方のどちらの機関なのか」という疑問が呈される可能性がある。筆者は「各省庁の地方支分部局を束ねる機関」とし、国の機関に位置付けるよう提案する(もっとも、後述のとおり、それは道州制に移行するまでの暫定的な措置で、最終的には地方の機関とする)。したがって、各省庁の地方支分部局は最終的には内閣(総理大臣や各大臣)の指揮下にある一方、例えば近畿エリアでは、財務省近畿財務局は財務省と近畿地方庁の両者から指揮されることになり、指揮命令系統が二重になる。

 また、農林水産省地方農政局や国土交通省地方整備局が中心に担う公共施設やインフラの整備についても、地方庁が総合調整をすることで効率的な整備が期待できる。一方、各地方支分部局が農林水産省・国土交通省と地方庁の3者から指揮されることになる。

 指揮命令系統が二重となる問題は地方庁の性質上、ほぼ不可避的に発生する。ただし、この問題は地方庁のみに発生する特別な問題ではない。現在の財務局は、財務省と金融庁の両者から指揮されている。よって、この問題の解決には、(必要があれば)内閣府に各地方庁を指揮する特命担当大臣を設置することも考えられる。ただし、特命担当大臣を設置せずとも、まずは各地方庁を内閣府の外局として位置づけることで対応可能と思われる。

 地方庁を設置せずとも、「広域連合」などで十分に対応できるのではないかとの旨の疑問もあるかもしれない。広域連合は、平成6年の地方自治法などの改正で創設された機関だ。この点については、広域連合ではどうしても部分最適な対応になってしまうことが予想される。広域連合は、その市町村などの構成団体から財政的に独立していない。責任の所在も不明確で、急速に進む人口減少や少子高齢化を乗り切るために必要となる「選択と集中」を行うための総合的な政策を打ち出すだけの権限ももっていない。この問題を克服するには、地方庁を設置して各エリアにおける意思決定や政策の一元化を図る必要がある。



地方交付税の分配権を地方庁に

 その際、広域地方計画は各エリアにおける「骨太方針」のような位置づけに改め、地方庁は、国の予算編成や規制改革などと連携しつつ、各エリアの規制改革や予算編成も同時に方向づけるものとする。そのため、以下の政策についても推進する。

 まず一つは、「地方交付税の分権化」を進める。現在、地方交付税の配分基準は総務省が定めている。人口減少・少子高齢化のスピードは各エリアで異なり、一律の基準で配分することには限界がある。また、2050年の人口が2010年と比較して半分以下となる地点が、現在の居住地域の約6割を占める状況では、明治維新後に廃藩置県で定めた「都道府県」という枠組みでも、中長期的に地域経済の活力を維持するのは期待し難い。

 このため、地方交付税の一定割合(例:30%)を人口比例などで地方庁に移譲し、各地方庁が独自の配分基準を作成し、各エリア版の地方交付税や広域地方計画に沿った一括交付金などとして、各々のエリア内の地方自治体に配分する仕組みに改める。その際、地方交付税が交付されない東京都の人口は、この配分基準から除くのが妥当であると思われる。

 なお、地方交付税の全てを地方庁に移譲しない限り、制度上、総務省自治財政局が地方交付税を配分する一方、各地方庁も地方交付税相当を配分することになる。その場合、例えば近畿地方庁がメリハリのある配分を行っても、総務省自治財政局が(特別交付税などを利用し)その効果を相殺する戦略を実行する可能性もある。そのような戦略を回避するためには、地方交付税の全てを移譲する必要があるかもしれない。

 もう一つは、「規制改革の分権化」も進める。国家戦略特区をはじめ、規制改革に伴う法改正などは中央省庁が主導している。各エリア内にしか法的効果が及ばない形式のものについては、地方庁にも規制改革の法改正案を作成・提案する権限を付与し、当該法案は内閣府が地方庁の代理で法令協議を行った上で国会に提出できる仕組みに改める。

 このような分権化は、例えば社会保障の領域のうち現物給付である医療保険の分野などで必要性が高まっている。急速な人口減少や少子高齢化に対応するため、国保の都道府県単位化など、保険者機能の強化が2018年度から徐々に進む。こうした中で、リスク構造調整を進めつつ、各地域や各職域の保険者機能を一段と強化し、医療・介護などの資源の効果的かつ効率的な利用を促す観点から、診療報酬や介護報酬などの体系の一部について分権化を検討していくことが望まれる。この時、オランダやドイツの管理競争が参考になるだろう。

 すなわち、診療・介護行為を全国一律に誘導するのではなく、地域や保険者単位で、報酬体系の決定プロセスや財源に関する責任を負える方向を目指す必要がある。具体的には、保険収載の対象範囲(=公的保険の適用範囲)、基礎的な医療と先進的なものとの役割分担、効率的かつ質の高い医療・介護サービスの供給やコスト節約などが、分権化の対象になるだろう。

 ところで、このような取り組みと同時に、権限と財源の都道府県への委譲や移譲を検討するため、かつての地方分権改革推進委員会のような組織を新たに設置する必要があるかもしれない。それがない状況で、このような改革を進めても、中央省庁間の代理戦争を地方庁が行う格好になってうまく機能しない懸念が残るためである。中央省庁を再編する際に内閣府などの機能を強化したものの、内閣府や内閣官房が十分な調整機能を発揮できず、「ホチキス留め」の役割に留まる。

 また、かつての北海道庁と北海道開発局による二重行政のようなものが、より広範な地域で発生してしまう問題も回避しなければならない。このため、地方庁がうまく機能するよう環境を整備する観点から、自治体への権限と財源の委譲や移譲についても十分に検討を進める必要がある。



マクロ的な資源配分を地方庁主導に改める

 繰り返しになるが、地方庁が担う固有な機能は、各エリア内(都道府県を超えた空間的な単位)で、どの都市圏を存置させるのか、存置させる都市圏をどの程度の規模に誘導するのか、各都市圏をどのようなネットワークで結ぶのかなどを決定し、その計画によって地方自治体や地方支分部局が担う公共財の供給を拘束することにある。

 つまり、「国土形成計画→広域地方計画」の流れを逆転させ、広域地方計画の位置づけを強化し、これまで中央省庁主導であったマクロ的な資源配分を地方庁主導の形に改め、各エリア内において「選択と集中」の政治的な意思決定を行うことが最も大きな目的である。

 その際、中央省庁が主導する予算や政策立案の仕組みも一部改め、地方庁主導で各エリアの予算や政策を立案し、それを内閣府が取りまとめ、財務省や国土交通省を含む中央省庁と調整する仕組みを実験的に導入する試みも重要であろう(注:財務省の予算査定や各省庁との法令協議は行う)。

 予算措置や法改正などが必要なものについては、最終的に国会に提出できる仕組みも必要だ。内閣府が地方庁に係る予算を取りまとめる際には、沖縄振興予算や北海道の開発関係予算、復興庁予算が採用する一括計上の仕組みが参考になる可能性がある。

 いずれにせよ、各地方庁は、上記の分権化された地方交付税や規制改革を利用しながら、それと整合的な形となるよう、選択と集中を図る選別基準を含む「広域地方計画」を策定し、それに集約エリアの指定や選択と集中の数値目標を盛り込む。

 これが政治的に最も難しい。だが国が直接決定するよりも、各エリアの地方庁が決定する方が政治的なコストは少なくできるはずである。政治の役割が「正の分配から負の分配」に転換し、例えば政治が100の「負の分配」を行う必要があるとき、国が直接▲100の分配を行うよりも、10の地域(エリア)が▲10の分配を行う方が政治的な調整コストは少ない。また、特定のエリアで数値目標が盛り込めないならば、そのエリアが他のエリアとの競争に敗れるだけである。



試される日本の叡智

 選択と集中を行う際に、例えば、公共投資を行う場合、2050年の人口が2010年と比較して半分以下となる地点が現在の居住地域の6割以上となる状況では、あらゆる空間に投資するのは非効率でリスクが高い。例えば、公共投資を効率的に行うためには、40年後の2050年も、12万人以上の人口規模を有する地域に投資するのが望ましい。「国土のグランドデザイン2050」参考資料によると、対家計サービスのうちショッピング・センターが立地する確率が80%以上となる自治体の人口規模は約10万人以上だ。医療・福祉サービスのうち一般病院が立地する確率が80%以上となる自治体の人口規模は約3万人であるが、有料老人ホームが立地する確率が80%以上となる自治体の人口規模は約12万人である。

 さらに、時間的な視野を考慮する場合、公共インフラなどの最適な供給量は一般的に人口増減率によって異なってくる。議論を単純化するため、人口1単位当たりの最適な供給量を1とし、人口が50年間で100から160まで増加するケースと、人口が50年間で100から40まで減少するケースを考えよう。このとき、人口100の時点で100を供給しても、人口増加ケースでは人口160の時点で160の供給が必要なことから、100の供給は無駄にならない。しかし、人口減少ケースでは、人口40の時点では40の供給しか必要でないため、60の供給が無駄になってしまう。

 公共インフラなどの供給にあたっては、時間的な視野として、建物のライフサイクルコストも深く考慮する必要がある。例えば、建物(鉄筋コンクリート造)の法定耐用年数が60年としても、建物に付随する設備類の耐用年数は15~30年程度と短く、建物の一生に最低2~3回程度の設備更新が必要となる。このような費用を含め、建物のライフサイクルコストを推計すると、一般的に設計・建設費は当該コストの20%に過ぎず、維持管理費が77%、解体などの廃棄費が3%を占めると考えられる。こうした人口減少のスピードや建物のライフサイクルコストといった時間軸も含め、公共投資を選択することが望ましい。

 従来のような地方交付税の仕組みでは、結局薄く広く財源を全国に配分し、立ち行かない自治体の延命にしかならない可能性が高い。急速な人口減少が見込まれる地域において必要となるのは、いわばダウンサイジングを図るための「撤退作戦」であり、そのための政策手段や合意形成の手法が求められている。

 この点について、辻琢也(2014)「人口減少社会におけるまちづくりと自治体経営~ドイツ・ザクセンアンハルト州・シュテンダール市より~」(季刊行政管理研究 No.146, pp.1-4)が参考になる。人口減少社会における戦略的エリアマネージメントについて、都市構造の集約化と減築を進めるドイツの興味深い事例を紹介している。また、生田長人・周藤利一(2012)「縮減の時代における都市計画制度に関する研究」(国土交通政策研究 第102号)などが主張するように、国土利用計画法や都市計画法の見直しも明らかに重要であって、各エリアでの規制改革も不可欠であろう。

 いずれにせよ、急速な人口減少・超高齢化がもたらす影響が顕在化し本格化するのはこれからが本番であり、その現実を直視し、果敢に選択と集中をしない限り、日本に未来はない。

 そのカギを握るのが国土形成計画(広域地方計画を含む)や地方庁(仮称)の創設だ。例えば2035年頃を目標に、道州制への移行を政治的にコミットメントする。地方庁はその行政府、コミッティーは内閣に相当するものに位置付け、新たに道州議会を設置するシナリオや工程表も同時に定めてはどうか。いま日本の叡智が試されている。