メディア掲載  グローバルエコノミー  2017.08.30

コメの自由市場を認めない人たち-先物取引反対は、農家の利益ではなく、JA組織の利益を守るための主張に他ならない-

WEBRONZA に掲載(2017年8月16日付)

 コメの先物取引市場の正式認可が、JA農協と自民党の反対により再び延期された。2011年試験的な市場が認められてから3度目の延長である。


世界最初の先物市場は大阪堂島のコメ市場だった

 先物取引とは、商品を将来の時点である価格で売買することを、現時点で約束する取引のことである。今では先物取引は農産物だけでなく金、原油から通貨、指数まで広範な商品について認められている。我々が国際的な穀物相場と言っているのは、シカゴ商品取引所(Chicago Board of Trade)の先物価格である。

 実は、世界で初めての先物市場は、1730年に開設された大阪堂島のコメ市場である。しかし、1939年、戦時経済の中で食料不足が起こり、政府が直接コメ市場を統制するようになって、自由なコメ市場は閉鎖された。

 1996年コメの価格や、流通を統制していた食管制度が廃止され、先物市場復活の可能性が出てきた。2005年に東西の商品取引所がコメの先物市場を農林水産省に申請した。しかし、JA農協との結びつきの強い自民党政権の下では認められなかった。


2011年にコメ先物取引が復活した背景

 2005年、JA全農秋田県本部によるコメの不正売却事件が発覚した。この事件では、農家のコメを横流して補助金を不正に受け取ったほか、公正なコメの価格形成の場として作られた全国米穀取引・価格形成センターの公的な入札制度を利用し、子会社を使った架空取引によって米価を高く操作した。

 その後、米価を維持したいJAは、全国米穀取引・価格形成センターを利用するのをやめ、卸売業者との相対取引に移行した。JAが5割を超える市場占有力を持って、卸売業者と相対取引をすれば、米価に強い影響力を行使できる。このため、同センターの利用が激減し、センターは2011年3月廃止となり、農林水産省は天下りポストを失った。

 しかし、これはJAに裏目に出た。民主党が2010年度に導入した戸別所得補償は、一定の生産費と市場価格との差を補てんするものだ。その算定の基礎となる市場価格は、当事者によって操作されない客観的なものでなければならない。

 商品取引所は、米価の客観的な指標を提供するためとして、再度コメの先物市場の試験上場を申請した。JAの相対取引への移行がこのような申請を行う口実を与えた。自民党から民主党に政権が移った2011年、農林水産省は申請を認可した。実に72年ぶりのコメ先物取引の復活だった。

 天下り先が細っている農林水産省にとっても、商品取引所が活性化すれば、多くのOBの再就職先を確保できるという思惑があった。農林水産省は2007年東京穀物商品取引所に次官OBを送り込み、コメの先物市場復活をもくろんだ。


先物取引は悪者なのか?

 先物取引は投機というイメージが強い。しかし、本来生産者にとって、将来価格が変動することのリスク回避の行為を行い、経営を安定させるための手段である。具体的に言うと、作付け前に、1俵1万5千円で売る先物契約をすれば、豊作や消費の減少で出来秋の価格が1万円となっても、1万5千円の収入を得ることができる。

 JA農協は、先物価格が高くなると、農家がコメを作る意欲が出て、減反に協力しなくなるとか、投機資金によってコメが投機的なマネーゲームの対象となり、価格が乱高下することは望ましくないと主張する。

 しかし、投機資金で先物価格が2万円に上昇することは、農家にとっては良いことである。先物価格が上がり、農家が減反に参加しないでコメを作るとしよう。これで出来秋に実現した米価が下がっても、実質的に農家が受け取る米価は先物価格であって、出来秋の現物市場での米価ではない。また、4千億円の財政負担でコメを減反させ、高い価格を実現して6千億円もの消費者負担を強いる減反は、廃止したほうが、国民経済にとって利益となる。

 そもそも、農家にとって、先物取引は経営安定のための方策であって、減反に参加するかどうかとは関係ない。先物取引を行っているアメリカでは、1995年まで減反政策がとられていた。また、先物価格が上昇すれば、生産者は生産を増やそうとするので、将来実現する現物価格は低下する。これは市場を安定させるという効果を持つ。JAが反対する理由こそが、国民経済的には先物市場のメリットなのである。

 〝コメを投機の対象とするな〟と言うが、現在と比較にならないほど、コメが日本人の主食としての重要性を持っていた時代ですら、200年の長きにわたりコメの先物市場は認められていた。JA農協の主張には何らの根拠もない。


投機・マネーゲームに走るJA農協

 JAは投機を批判する。しかし、JAバンク(農林中金)の預金はとうとう百兆円を超えた。このばく大な資金を背景に、ニューヨークのウォールストリートで、我が国最大の機関投資家として、有価証券に投資をして莫大な利益を上げている組織は、他ならぬJAバンクである。

 2011年、試験上場は認可されたが、JAは先物市場への参加をボイコットした。JAの不参加によって経営難に陥った東京穀物商品取引所は解散し、コメの先物市場は大阪堂島商品取引所に統合されることとなった。今回も十分な上場量が確保できなかったことが、正式認可見送りの理由となった。天下り先を確保しようとした農林水産省の、JA農協への屈服でもあった。ただし、将来の正式認可をもくろむ農林水産省は、本上場の不認可とはしないで試験上場の再延長として、将来の本上場認可への望みをつないだ。


JA農協が反対する本当の理由

 JA農協の販売手数料は売上高に応じて決まる。JA経営のためには、減反で供給を少なくして売上高を引き上げたほうが良い。JAが減反を積極的に推進してきたのはこのためである。

 JAが先物取引に反対する理由も、減反や相対取引を推進してきたのと同じく、現物取引である米価格を操作できなくなるからである。先物価格が上がると農家は利益を受けるが、あくまでも現物価格で手数料収入が決定されるJAは何らのメリットも受けない。農家とJA農協の利益は異なるのである。先物取引反対は、農家の利益ではなく、JA組織の利益を守るための主張に他ならない。

 実際にも、組織の利益を守るためには農家の利益を顧みないできたのが、JA農協である。2007年、米価が低下した。事前に、JAには、種もみの取引が活発で、過剰な作付けがあるという情報が、入っていた。そこで、JAは先手を打って、農家への仮渡し金を前年の1万2000円から7000円へと大幅に減額した。JAとしては、自分たちに販売を委託すると、7000円しか払いません、売れないコメを抱えると金利・保管料を負担しなければならなくなるので、コメは扱わないというメッセージだった。組合員が利用するために作った農協が、組合員である農家に、組合を利用するなという事実上のコメの集荷拒否を通告したのである。これは当時コメ業界で「7000円ショック」と言われた。


安倍政権による農業改革のめっきがはがれてきた

 農協改革や株式会社の農地保有のような規制緩和は、法律の改正が必要となるので、国会での審議に関係する自民党の了解が必要である。しかし、そもそも先物市場を認めるかどうかは、農林水産大臣だけで判断できる事項で自民党が介入するような事柄ではない。

 〝減反廃止〟は安倍内閣が作ったフェイクニュースだった。農協改革も不完全なものだった。今回は、本来、行政府だけで決定できる事項に、JA農協や農林族の介入を許してしまった。

 農業改革のめっきがはがれつつある。