メディア掲載  グローバルエコノミー  2017.08.10

最も重要なのに議論されていないヒアリ対策とは-日本は過去の過ちを繰り返してはならない-

WEBRONZA に掲載(2017年7月28日付)
議論されていない効果的な対策

 ヒアリの侵入が大きな問題となっている。ホームセンターでは、アリの防除剤が大量に買われている。ヒアリではないアリたちにとって大変な災難だが、多くの国民が脅威を感じているのである。

 しかし、ヒアリの侵入や蔓延に対する対策には決め手はないようである。

 NHKの日曜討論で、ヒアリの生態に詳しい昆虫学者、物流の専門家などの人達が討論していたが、入ってくるのは防ぎようがないとか、入られてしまうとコンテナは各地に送られるのでヒアリの拡散はしかたないとか、否定的な議論ばかりが聞こえ、専門家同士の間で自分の分野では手におえないからあなたの所管だといった消極的な権限争い(責任の押しつけ合い)をしているかのような印象を受けた。

 また、政府でも、水際で食い止めることが重要だとして、中国等からの貨物船の運航が多い68の港湾でアスファルトの割れ目を埋めて、ヒアリが巣を作らないようにするといった原始的な対策が講じられているにすぎない。

 私は、このような対策や議論を聴いて、最も重要で効果的な対策が検討もされていないのではないかと感じる。

 日本として、入ってくるのは防ぎようがないというのであれば、外国から出さないようにすればよい。これが最も効果的な方法である。ニュージーランドがヒアリを退治したと言われているが、これは侵入を許した後に、多大な費用をかけて駆除したというのが実態のようである。入らないようにするためには、出させなければよい。


具体的に何をすればいいか

 アメリカでBSE(牛海綿状脳症)に汚染された牛が発見されたときに、我々は何をしたのだろうか。アメリカからの牛肉の輸入を禁止したのである。

 これはBSEだけに限らない。口蹄疫(こうていえき)の場合でもそうだし、また、地中海ミバエのように、ある地域で農産物に悪影響を及ぼす病害虫が発生したなら、清浄化が実現するまで、その地域からの輸入を禁止する。このような輸入制限は国際的にも認められている(具体的には、WTO=世界貿易機関=のSPS協定である)。

 人の生命・身体や農産物、生態系に被害を与えるヒアリなどの特定外来生物の輸入・運搬は禁止されている(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)。ヒアリ自体を輸入する目的で貿易しようとする業者はいないが、コンテナ貨物を通じてヒアリが日本国内に侵入することはヒアリを輸入しているにほかならない。これを禁止すればよい。

 BSEなどと同じような措置を講じようとすると、まずヒアリに汚染されている国・地域からのコンテナ貨物の輸入を禁止するのである。そうなれば、アメリカが日本の牛肉輸入禁止に抗議して協議を申し入れたように、関係国は日本に協議を要請してくるだろう。その時は、ヒアリの根絶を要求するか、当面の最低限の措置としてコンテナ貨物内のヒアリの燻蒸・死滅を要求すればよい。あるいは輸入業者にコンテナ貨物の燻蒸を義務付けてもよい。

 ヒアリ対策関係省庁連絡会議は、特定外来生物を担当する環境省と港湾・物流を担当する国土交通省が中心となり、財務省、文科省、厚労省、農林水産省が補助的に参加しているにすぎない。外国との協議を必要とする対策を検討しなければならないのに、外務省の担当者が参加していない。ヒアリ対策関係閣僚会議にも外務大臣は参加していない。

 まさか中国を怒らせることを心配して、最も重要な対策を講じないで国民の生命・身体に危害を与えても仕方がないと考えているのではないだろう。かつてアメリカからの梱包木材に忍んでいたマツノマダラカミキリという害虫によって、我が国の森林は松くい虫による多大の害を被り、現在でもその防除に大きな費用を投下している。過去の過ちを繰り返してはならない。