メディア掲載 グローバルエコノミー 2017.05.10
日本政府はアメリカ抜きの環太平洋経済連携協定(TPP、11カ国が参加するので〝TPP11〟と称している)を推進することを決断したと報道されている。このWEBRONZAで昨年夏以降、私がたびたび主張したことが、ようやく政府部内でもコンセンサスになったようだ。
しかし、これに至るまでの政府の行動には残念なことがある。
まず、アメリカ抜きのTPPという私の提案に対して、アメリカが参加しないTPPは意味がないとか、アメリカ市場へのアクセスを条件に他の分野での譲歩に応じた国は再交渉を求めることとなるとか、やりたくないための理由を並べ立てたことである。
最初のうちは、真剣に検討しようという態度は見られなかった。また、このような政府の対応におうむ返しのように同調する学者や研究者がいた(これについては過去に反論しているので、ここでは繰り返さない)。
おそらく潮目が変わったのは、トランプ政権になって、TPPからアメリカは脱退し、日本に二国間の自由貿易協定(日米FTA)締結の交渉を求めるというスタンスが明らかになったときからだろう。
日米FTAになれば、農産物でTPP交渉以上の約束を求められる可能性が高い。それならTPP11を先行させ、オーストラリアやカナダなどにアメリカよりも低い農産物関税を適用し、アメリカ農産物を日本市場で不利に扱うことによって、アメリカの交渉上のスタンスを弱めよう、アメリカが強く出られないようにしようという思惑が出てきたのだろう。
TPPに復帰しようとするかは別として、アメリカはせめてオーストラリアやカナダ並みに扱ってほしいと下手に要求せざるを得ないからである。
それでも最終的な決定とはならなかった。ある報道によると、日本がTPP11を推進することにアメリカが反対しないことを確認してから、最終的に決断したと言われている。
しかし、何かとてもおかしいのではないだろうか?
何年もかけて交渉した後ようやく合意したTPPから勝手に抜けたのは、アメリカである。日本も含め、他のTPP参加国が何をしようが、アメリカにとやかく言える筋はない。
迷惑をこうむっているのは11カ国である。それなのに、アメリカのご意向を確認しないと日本は自らの行動を決断できないのだろうか?
これではアメリカの属国のようなものである。トランプだけではなく、日本政府の中にも〝アメリカ第一〟、アメリカの機嫌を損なうことを何よりも恐れる人たちがいるのだ。
ともあれ、政府はTPP11を決断した。あとはどうやって11カ国の合意を取りつけるかである。
アメリカ市場へのアクセスを条件に他の分野での譲歩に応じた国はTPP11に消極的になるだとか、再交渉を求めることとなるとかという問題点が提起されている。
これに該当する国はベトナムだろう。アメリカの関税で高いものは繊維製品で、他の品目の関税は低い。ベトナムは繊維製品の分野での関税撤廃、アクセス拡大の見返りに、国有企業で譲歩したと言われる。
しかし、ベトナムはTPP交渉で国有企業について多くの例外を勝ち取っており、それほど譲歩したとは思われないし、ベトナム政府内部にも国有企業の改革を推進しようとする意見が強く、譲歩ととらえているかも疑わしい。
もちろん、ベトナムがこだわるようであれば、ベトナムを入れないでTPP10としてもよい。しかし、私が主張してきたように、アメリカ抜きのTPPは、アメリカにTPPに復帰させるための手段だと言うことである。アメリカがTPPに復帰すれば、ベトナムの懸念はなくなる。この点をベトナムに説明すればよい。
これは、日本政府としてあくまでTPP11を求めるのであって、日米FTAには応じないというコミット(約束)を、他のTPP参加国に対して行うことに他ならない。
日米FTAができれば、アメリカがTPPに復帰することはありえなくなるからである。日米FTAをやりたくないのであれば、TPP11を推進し、アメリカの復帰を求めるという約束を他のTPP参加国にしているのだと、アメリカに言えばよい。