先週末、家電量販店に行った。販売の目玉はIoT(インターネットでつながることによって実現する新たなサービス)家電。「スマホをリモコン代わりに家電を操作したり、家電の運転状況やデータをスマホで管理・確認できる」とうたっていた。でも、よくよく考えてみてほしい。
●生活が一層便利になるからインターネット技術の進歩は素晴らしいのか。
●インターネットにつなげばサイバー攻撃を受けるから家中の家電が誤作動する脅威が増えるだけ、なのか。
読者の皆さんはどちらだろう。もちろん筆者は後者。21世紀の世の中、家中の機器をインターネットにつなぐなんて時代遅れも甚だしい。筆者がそう考える理由はこうだ。
トランプ氏が大統領に就任以来初めて対議会演説を行った2月28日、米国防総省の諮問機関・国防科学委員会がサイバー戦抑止に関する報告書を公表した。なぜか日本では報じられていないが、その結論は戦慄的ですらある。
●中露両大国のサイバー攻撃能力は強大であり、少なくとも今後10年米国は自国の基本インフラを防御できない。
●イランや北朝鮮も米国の死活的に重要なインフラに壊滅的な被害を及ぼすサイバー攻撃能力を拡充しつつある。
●その他の諸国や非国家集団も米国に対する継続的サイバー攻撃・侵入能力を持ちつつある。
以上に鑑み報告書は国防総省に攻撃者に応じたサイバー抑止能力を開発し、敵に耐え難いコストを課す攻撃能力を持たせるよう提言する。
米国の基本インフラや軍事能力はインターネットなしにもはや機能しない。だからこそ米国はサイバー攻撃に脆弱(ぜいじゃく)となりつつあるのだ。ここで国家を家庭に、基本インフラを家電に置き換えれば、筆者がIoTに懐疑的である理由が分かるだろう。だが、話はこれで終わらない。
同報告書公表から1週間後の3月7日、内部告発サイト「ウィキリークス」が米中央情報局(CIA)のハッキング技術に関する極秘資料の一部を公開した。今回漏洩(ろうえい)したのはCIAがスマホなどの機器に侵入しひそかに情報を盗み取る技術を含む8761件、CIAサイバー機密情報センターから流出した資料の一部だという。3月7日といえば、側近とロシア情報機関との「接触」報道に激怒したトランプ氏が「オバマ大統領はトランプタワーの電話盗聴を命じた」とツイートして大騒ぎになった直後のこと。当然ながらさまざまな臆測が流れた。
ロシアの仕業か。それはないだろう。今回の流出ではCIAのハッキング能力が暴露されたという。ロシアならリークなどせず、自国のハッキング能力向上のため使うはずだ。ウィキリークスは今回機密情報を公開した理由として、「米国政府は市販ソフトウエアの脆弱性を発見したら関係企業にその内容を通報すると約束したにもかかわらず、CIAがこの約束を破ったからだ」と述べている。いずれにせよ、今回の事件により米国のサイバー戦能力は大幅に低下するだろう。ウィキリークスの言う通り、「これらが解き放たれれば瞬時に世界中へ拡散し、対立国や『サイバーマフィア』に利用されかねない」からだ。
それでは日本はどうか。米国ですら、中露の圧倒的なサイバー攻撃能力には対抗できない。日本インフラの脆弱性は既に悲劇的かもしれない。その日本では、これから「モノをインターネットにつなぐ」のだそうだ。これは「悲劇」を通り越し、「喜劇」ですらあると思う。
量販店で見たスマート家電の宣伝文句は「離れていてもわが家を守ろう! 専用アプリをダウンロードしたスマホを無線LANに接続するだけ。留守宅の防犯にお勧め」だった。IoTは本当に進歩なのか、よくよく考えてほしい。