ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2017.02.02
「金融政策は資産価格変動を考慮して運営されるべきか」という問題は、古典的な政策議論の一つである。これは日本の1980年代後半からのバブル景気とその崩壊に伴ういわゆる「失われた10年」と呼ばれる長期不況や、アメリカの2000年代中頃の住宅バブルに伴う好景気とその後の2007年後半に起きた金融危機に端を発するいわゆる「大不況(Great Recession)」など、大きな景気変動の際には、その事前の資産市場の過熱による資産価格高騰と、その終焉による急激な資産価格下落が伴うことがしばしば見受けられるからである。
資産価格を考慮した金融政策運営に関して、すでに多くの既存研究があるが、必ずしも決定的な結論は得られていない。この中で、近年の研究で注目すべきものの一つにCarlstrom and Fuerst (2007)がある。彼らは標準的なニューケインジアンモデルに株式を資産として導入し、株価変動を考慮する金融政策を考えると、そのような金融政策は均衡の非決定性の原因となり、経済の不安定化を招くことを明らかにした。この結果は金融政策が株価変動を考慮すべきではないことを示す根拠としてとらえることができる。しかしながら、現実には株式以外にも多くの種類の資産が存在する。そこで、Carlstromたちの研究結果が他の資産価格の場合でも成立するかを分析することは意義があると考えられる。
本稿では、金融危機以降注目を集める資産として「住宅」に焦点を当てる。そこで、標準的なニューケインジアンモデルに、住宅を資産として導入し、住宅価格変動に反応する金融政策の効果を分析した。その結果、Carlstromたちが分析した株価の場合とは異なり、住宅価格変動を考慮して金融政策運営を行うことは経済の安定化(均衡の決定性)に貢献することを理論的に示すことができた。
Asset Prices, Nominal Rigidities, and Monetary Policy: Case of Housing Price (英語) (PDF:268KB)