メディア掲載  グローバルエコノミー  2016.10.25

農業を魅力ある就業先とするために

日本労働研究雑誌No.675 に掲載(2016年10月号)

 農業者の高齢化が進んでいる。高齢化した農業者が引退しても後継者や新規就農者が参入すれば、農業人口は減少しない。しかし、新規就農者は農業人口の2%に過ぎない。このため、農業人口の減少が続いている。新規就農者を増やすよう、農林水産省は多額の財政支出を行っているが、効果は出ていない。
 新規就農者が増加しないのは、農政が農業への参入と農業収益の向上を阻んでいるからである。農地法の基本理念は耕作者が所有者であるべきだとする「自作農主義」である。「所有者=耕作者」である自作農が望ましいとするため、農地の耕作や経営は従業員が行い、農地の所有は株主という、株式会社による農地の所有は認められない。友人や親戚から出資してもらい、農地所有も可能な農業生産法人である株式会社を作って農業に参入することは、これらの出資者の過半が農業関係者で、かつその会社の農作業に従事しない限り、農地法上認められない。つまり農家出身ではない資金力のない人がベンチャー企業を作って参入することは困難なのである。
 また、減反による高米価政策は零細な兼業農家を米産業に滞留させ、農業らしい農家が規模を大きくしてコストを下げ、収益を上げることを阻んでいる。農政についての改革を行えば、農業への参入が進み、農業収益も向上する。それは農地のゾーニング制度の確立と農地法と減反政策の廃止である。


はじめに

 農業に関心を持つ人が増えている。土地を耕し、家畜に接し、自然に触れる喜びを感じる人もいるだろう。窮屈な会社勤めから解放されたいという人もいるだろう。農業就業者人口の減少に危機感を持った農林水産省も新規就農者対策に力を入れ始めている。しかし、憧れや期待だけでは、就農できないし、就農しても長続きしない。農業には農家出身者以外の人の新規就農を拒んでいる制度があるうえ、就農後適切な所得を得ることができなければ離農が起こるだけである。

 農業が高齢化しているのは、農業収益が減少しているので農家の子弟が農業を継ぎたがらず、残された農業者が農業を継続せざるを得ないからである。しかし、人口減少で全国のほとんどの自治体が消滅すると言われたが、秋田県で唯一存続できると判定された自治体はほぼ全戸が農家である大潟村である。大潟村にはどのような秘密が隠されているのだろうか?本稿では、新規就農を阻んでいる制度的な障害をいかにして減少していくのか、農業所得を向上させるための方策とは何かについて、論じたい。・・・


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