この原稿はストックホルム(スウェーデン)のホテルで書いている。今回は7日間でハンガリー、ポーランド、スウェーデンを回る超過密日程。現地大使館の支援を得て政府・シンクタンク関係者やジャーナリストと興味深い意見交換ができた。それにしても、最近欧州訪問の度に感じるのは中国の存在感の増大だ。中露両国と隣接する日本と異なり、欧州諸国にとって中国は国家安全保障上の関心事ではない。この違いを欧州人に分からせるのは大変だと実感したが、今回の出張にはもう1つ目的がある。各国で欧州連合(EU)懐疑派、極右・大衆迎合ナショナリズムが台頭する背景を知りたかったのだ。
まずはハンガリーから。この中東欧の人口1千万人にも満たない国家は何と7カ国と国境を接する。アジア系騎馬民族起源を自負する同国は極めて親日的だ。第二次大戦の戦火を免れたブダペストは中世の街並みが残る美しい街。最近オルバーン現政権が反難民キャンペーンを強めたせいか、市内に中東難民はほとんど見かけない。それでは国民の生活水準が低下し、移民や外国人に人々が怒っているのかというと、それもない。成長率や失業率はそこそこ、問題はむしろ人手不足だという。
現政権のもう1つの特徴はEUとの対決姿勢を強めていることだ。政府与党への権力集中やメディアへの国家監督強化だけではない。「自由主義から決別すべし」「中国、ロシア、インドなどを見習うべし」といった同国の主張には一部欧米諸国が懸念を表明している。困ったことだ。
次はポーランド。人口4千万人近い中東欧の大国で、最近は3%台後半の経済成長を維持している。英国離脱後はこの国がEU経済の一翼を担うともいわれるほどだ。ハンガリーと同様、現政権は内政面で強権的姿勢を強め、難民受け入れにも消極的。外交面では対EU批判を続ける一方で、ハンガリーとは違い、対ロシア警戒心を隠さず、北大西洋条約機構(NATO)、特に米国との関係強化に熱心だという。
西欧の英国、フランス、ベルギーは巨大なイスラム教移民社会があり、新参移民に対する差別やテロの問題を抱えている。これに対し、西欧のように難民・移民を受け入れない中東欧のハンガリーやポーランドは、EU加盟国としての特権だけを最大限利用しているようにすら思える。
最後はスウェーデン。この人口約1千万人の北欧の盟主は、1人当たりの国内総生産(GDP)が6万ドル近くある人権・平和・援助の外交大国だ。ナポレオン戦争以来200年間戦っていない同国の首都には美しい街並みが残っている。だが、中心部から地下鉄で20分のリンケビーという町に行けば、そこは別世界。シリア、アフガニスタン、イラク、ソマリアなどの難民が隔離されるように住んでいる。昨年の難民受け入れ数は16万5千人。さすがのスウェーデンも限界を超えたようで、今年は受け入れ数を大幅に縮小したそうだ。
たった1週間で全てを見たという心算はないが、今回痛感したことは、同じ欧州でも国によってEU懐疑派や極右・大衆迎合ナショナリズムの台頭する背景が微妙に異なることだ。英仏などの西欧とは異なり、中東欧のハンガリーやポーランドでは、主として国内政治上の理由から現政権が反EU姿勢を大衆に煽っているようだ。
一方、これまで難民を真摯(しんし)に受け入れてきたスウェーデンでは、その輝かしい実績のため逆に難民が殺到して制御不能となった。現政権は、その意に反し、難民に厳しい政策を始めている。
10月以降、欧州ではオーストリアで大統領選決選投票、ハンガリーで難民問題の、イタリアでは憲法改正の国民投票がそれぞれ行われ、来年には仏独などで大統領選挙・総選挙も予定されている。今後は各国の内政事情をそれぞれきめ細かく分析する必要がありそうだ。