政治とカネの議論がまた始まった。先週、甘利明経済再生担当相が辞任、政治家としての「矜持(きょうじ)に鑑み」決断したそうだ。本欄で「あっせん利得」を取り上げる理由は、日本の政治とカネに関する感覚が特殊だと思うからだ。今回は誤解を恐れず、この「口利き」なるものを原点から考える。
某有力紙社説は「趣旨のはっきりしない多額のカネが、いとも簡単に政治家に提供され」「政治家の側はよく知らない相手からでも当然のように受け取る」と批判する。その点に異論はない。筆者が気になるのは、どこまでが正当な政治活動で、どこから違法となるかの境界線だ。日本の「政治とカネ」の議論にはどうしても違和感を覚える。
日本の「あっせん利得」に最も近い欧米の概念は「ロビー活動用政治資金」だ。ロビー活動とは個人・団体が政府の政策に影響を及ぼすために行う私的政治活動で、欧米では禁止されていない。このロビイングのため政治家に払う現金も政治資金だ。ロビー活動用資金が全て違法なら米国に政治家はいなくなるだろう。これに対し日本では正当な政治活動に現金を払うことは認められる一方、不当な口利きのための現金支払いは違法となる。なぜなのか。
平成12年の「あっせん利得処罰法」では、請託を受け政治家の権限に基づく影響力を行使して公務員の職務上の行為をさせる(させない)ようあっせんしたり、その報酬として財産上の利益を受けた場合、3年以下の懲役となる。少し分かりにくいので業者の「要求」と行政の「判断」を類型化して考えてみよう。
以上が現行法の規定だ。
「その権限に基づく影響力を行使して」とは、例えば地方議員が「議会で大変なことになっても知らんぞ」と質問権をちらつかせたり、庁舎建設推進委員会の委員が「立派な庁舎が早くできるよう頑張るから」などと伝えた場合らしい。だが、この基準、実はあいまいだ。しかも業者の請託があり、有力大臣が金銭を受け取ったとなれば、庶民感覚ではアウトに見える。これでは国民が不信感を持つのも当然だろう。
では外国はどうか。例えば米国ではロビー活動が公に認められている。専門家によれば米国では、(1)選挙費用と政治活動資金を区別せず、すべて政治資金として取り扱う(2)有権者は支援する議員が影響力を行使し働き掛けをするのは当然と考える(3)政治資金は包括的に情報公開され、どの企業や団体が議員にいくら資金を出しているかはインターネットで追跡できるという。つまり、米国では政治資金の内容を公表し、献金の是非を国民が判断できるのだ。
欧州はどうか。英国では政治家と官僚の接触が原則禁止されているが、EUに贈収賄防止統一法はない。ロビー活動をもっと透明化すべしとの議論は欧州のみならず、日本にも妥当するはずだ。マスコミは「国民の政治に対する不信を広げた罪は大きい」と批判するが、今の日本に必要なことは実態把握が困難な「口利き」を全面禁止するより、政治資金の透明性を高めることの方ではないだろうか。