1.足元の経済動向
安倍政権が発足してから丸3年が経ち、経済政策の見通しが分かりにくくなっている。2013年4月に黒田東彦総裁がいわゆる「異次元緩和」という大胆な金融緩和政策を開始した時、「2年程度で2%インフレを達成する」ということが目標とされた。目標通りなら、2015年春~夏には2%インフレになっていなければならないはずだが、直近のインフレ率はマイナスとなり、2%インフレの実現は遠のいている。黒田氏は達成時期が2016年後半になることも容認する姿勢で、多くの市場参加者は、2016年内の2%インフレ達成には懐疑的だ。政府が目標としている経済成長率は2.3%であるが、安倍政権の3年間の平均は約1%程度であり、直近はマイナス成長である。アベノミクスで想定していた経済回復は思うように進んでいないのが現状であろう。また、内閣府が決める景気基準日付によると、安倍政権の発足の1カ月前(2012年11月)が景気循環の谷であり、その後は景気回復が続いているわけだが、すでに3年も経っている。過去の景気循環では、景気の谷から景気の山までの期間は約3年程度のことが多いから、2016年1月時点で考えれば、そろそろ今年中に、景気の山を過ぎてもおかしくはない。すると、今年から来年にかけては景気の後退局面に入る可能性が増しているわけで、その環境の中で、デフレ脱却と経済成長を実現するのは容易ではないと言えよう。
経済に力強さがない理由のひとつは、安倍政権下で、勤労者の賃金が実質的に低下してきたことである。図1は、物価上昇率と賃金上昇率を比較したグラフである。
過去3年間、2%インフレの目標は達成できなかったが、消費者物価指数(消費税の増税込み)はおおむねプラス1%程度のインフレを実現してきた。さらに、2014年4月の消費税の増税により、生活者の視点からは消費税込みの物価は2%以上のインフレになっていた(日銀が目標とする2%インフレは消費税抜きの物価である)。特に食品や日用品の価格上昇は顕著であり、勤労者の生活は圧迫されている。一方、名目賃金の上昇率は2014年半ばまでマイナス1%からゼロ%程度で低迷していた。ようやく最近になって賃金上昇率はプラスに転じている。つまり、物価は緩やかに上がっていたのに、賃金は上がらない状況が続いていた。実質的には、賃金が1%~2%の率で下がっていたのと同等である。これでは勤労者の生活は改善どころか悪化してきたと言える。賃金がインフレ率と同じまたはそれ以上の率で上昇して初めて、個人消費は本格的に回復することができる。日本が力強い経済成長を確実に回復するためにも、賃金の上昇はきわめて重要な課題である。・・・
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日本経済の展望