ワーキングペーパー  グローバルエコノミー  2015.11.25

ワーキング・ペーパー(15-004E) 「Asset Bubbles and Bailouts」

本稿はワーキング・ペーパーです

 1990年代の日本や、近年のアメリカの金融危機など、バブルの崩壊を伴う経済変動は実体経済に悪影響を与えてきた。政府は銀行への資本注入を行うなど、バブル崩壊の影響を受けた主体を緊急救済(bailout)することで、こうした経済の悪影響を緩和しようとする傾向がある。もし救済策を政府が取るということを、バブルが崩壊する前の事前の段階で、経済主体が予想をしていたとすると、このような救済策の存在は経済にどのような影響を与えるだろうか?

 本稿では、無限期間生きる動学的な一般均衡モデルを用いて、バブル崩壊に対する政府の救済策が事前に読み込まれるときの影響を考察する。具体的には、救済策の存在が、バブルのサイズに与える影響、経済のブーム・バスト・サイクルに与える影響、さらに経済厚生に与える影響を考察する。

 モデルの主たる特徴は、次の通りである。経済には生産性の高い企業家と低い企業家、および労働者が存在する。企業家は投資を行う主体である。彼らは金融制約に直面しており、投資を行うための借入に担保を必要とする。均衡において、生産性の高い企業家が借手となり、低生産性の企業家が貸手となる。労働者は労働力を提供し、その賃金に基づき消費を決定する主体である。このモデルにおいて、何も生み出さない資産が価値を持つ合理的バブル均衡の存在を示すことができる。

 本稿で考察する救済策は次のようなものである。バブル資産を所有していたため、バブル崩壊時点においてその価値がゼロになってしまった企業家のうち、一部の割合を救済する部分的な救済策である。具体例としては、アメリカの金融危機においてAIGは救済され、リーマン・ブラザーズは救済されなかったことが挙げられる。

 分析の主要な結果は以下の三つである。第一に、政府によるバブル救済策が事前に読み込まれると、バブルの大きさが大きくなることが確認された。これは救済によりバブル資産の安全性が高まるためと考えられる。第二に、ブーム・バスト・サイクルがより増幅されることが確認された。これは救済によりバブルのサイズが大きくなることで、借入制約が緩和され、実体経済にプラスの影響をもたらすためである。第三に、救済する企業家の割合が、納税者(労働者)の経済厚生に与える影響は非単調であるようなパラメーター領域が存在した。そこでは、全く救済しないケース、および100%救済するケースのどちらも最適ではなく、部分的な救済が納税者にとって望ましいことが示された。




14-001Eを改訂・増補