論文  グローバルエコノミー  2015.09.17

日本における農政と持続可能な発展

<要約>

 日本は多くの農産物を関税大幅削減もしくは関税撤廃の例外にすることを最優先としてきた。環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) 交渉に関して国会農業委員会は、TPP 協定で日本のコメ、小麦、牛肉と豚肉、乳製品および砂糖などを関税撤廃の例外とし、もしこれが確保できない場合は、 TPP 交渉から脱退も辞さないと決議した。この決定が交渉での日本政府を制約するものとなった。

 ウルグアイ・ラウンド交渉で守りの姿勢をとったEUは、日本とは対照的に農業政策改革を遂げ、ドーハ・ラウンドでは積極的な役割を演じた。EUでは価格支持から直接支払いに政策転換し、農業を保護しつつも消費者に低価格で農産物を提供している。日本において関税が本当に保護しているのは、農産物の高い国内価格である。コメは日本の政治においてきわめて神聖な生産品である。日本のコメの減反政策は1970年に導入された。米価支持のこの政策により40%の水田で稲作が放棄されることとなった。農家が減反政策に参加する補助金費用を国民が負担しているだけでなく、その結果となった高価格をも負担している。日本のコメ産業が2兆円の価値の一方、納税者・消費者として国民への負担は1兆円にのぼる。農林水産省は食糧安全保障と「多面的機能」の名のもと、独自の政策を正当化している。しかし日本の農業政策はその両方を損なわせている。食料安全保障に貢献できたはずの340万ヘクタールの水田のうち、コメの減反政策のために100万ヘクタールを失っている。その結果、日本農業にともなう多くの環境的利点を失うこととなった。減反政策は日本のコメ産業も弱体化させている。高米価であることで非効率な小規模兼業農家を産業に滞留させ、専業農家が土地を獲得し耕作規模を拡大させるのを難しくしている。専業農家は生産コストを削減し、所得を増加させることができないでいる。だが、農協(JA)はこの政策をつよく要求してきた。高米価の意味するところは、コメ販売手数料の増収であり、高価格の化学肥料や殺虫剤といった資材の売上増である。くわえて農協(JA)は、農家と非農家を対象に、銀行、生命保険、傷害保険、すべての農産物の販売と材料はもちろん、日用品やサービスまで取り扱っている。農協(JA)にとって、これら兼業コメ農家の継続的な存在は好都合であった。農業所得外の給与所得は、農業所得の4倍であるほか、耕地を転用目的で売買(毎年数兆円にのぼる)した利益はすべて農協の銀行口座へと貯蓄され、JAバンクを日本で2番目のメガバンクへと築いた。高米価保持と、農地を保有している兼業農家が農協(JA)の成長と繁栄の基礎である。日本農業の未来は、戦後農業政策の中心柱のひとつである減反政策という固い「岩盤」を打ち破ることができるかにかかっていると言える。安倍政権は70年間で最初の農協改革に乗り出したが、抜本的な改革はまだこれからである。減反政策が廃止されると、米価は安くなり、兼業農家は農地を貸し出すことになる。くわえて直接支払いの受益者を専業農家のみに限定すれば、専業農家は地代をより楽に支払うことができるだろう。農地が専業農家の手に集まることで、農業規模が拡大する。減反政策の中止で、土地面積の単位あたり収量を増加するだろう。これらすべてが結びつき、世界市場で日本米の競争力を高めることになる。高い関税で国内市場を保護するという意図に反して、日本農業は衰退をみた。国内市場は高齢化と人口減少のために縮小していく。日本の農業は輸出市場を開拓することなしには未来はないだろう。輸出拡大のためには輸出先の関税が低いほうがよい。TPP交渉やその他の貿易自由化において、貿易相手国により課税される関税を取り除き、輸出を円滑にするためには、農業部門は積極的に行動すべきである。日本はベトナムやタイからコメを輸入する一方、日本農業は高品質品種であるコシヒカリといった高い付加価値の農産物を輸出することで生き残ることができる。日本が開発途上国に市場を開くことで、それら諸国の持続的な発展を高めることができるだろう。


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