今年のお盆はワシントンで過ごした。日本での関心は安倍晋三首相の戦後70年談話だったが、米国では既に来年秋の大統領選が始まっていた。筆者が最初に米大統領選を経験したのは留学生時代の1976年。あれから40年、候補者や政治資金ルールは変わっても基本は変わっていない。良くも悪くも米国大統領は東アジアだけでなく、世界中の地域情勢に多大な影響を与える。そこで今回は、気の早い米国人に
ニューヨーク生まれの大富豪、80年代の好景気でブームに乗った不動産王だ。そういえば、1年前の娘の結婚式で泊まったハワイの高級ホテルもトランプだった。自己顕示欲が強く、過激な発言やパフォーマンスには批判も多い。他方、頭の回転は速く、最新の世論調査では共和党候補の中でダントツの28%の支持を得ている。
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トランプ氏だけではない。民主党でも超リベラルのサンダース上院議員が支持を集めている。内外メディアは民主共和両党内にワシントンの既成政治家に対する有権者の失望と怒りがあると解説する。だが、そうしたアンチ・エスタブリッシュメント感情自体は決して目新しくない。
興味深いのはそうした憤怒の源泉だ。米国では有色人種が多数派となりつつある。最大の「負け犬」は中老年ブルーカラー白人男性だ。トランプ氏の不法移民批判や排外主義的傾向を見ていると、この種のグループに対する配慮が垣間見える。しかし、今のトランプ支持増大が大統領本選挙での勝利に結び付くとは思えない。米国有権者の多くは投票日の1カ月前まで投票する候補者を決めないからだ。
最後に、現時点での筆者の独断と偏見を記しておく。
トランプ、サンダースなどに共通するのは妥協を排す純粋主義だ。しかし、それでは平均的有権者は付いてこない。これまでも出馬を検討した多くの原理主義者が途中で挫折している。
原理主義者が一定の支持を得続ければ第三党を作って出馬する。そうなれば政党は内部分裂し、本選挙では敗北する。典型例が92年のロス・ペロー候補の出馬とビル・クリントン候補の当選だろう。
米国は広い。非原理主義者の大統領候補だけで選挙は勝てない。全国的支持を獲得するには正副大統領候補の出身地や支持母体などの均衡を図ることが重要である。
最後にモノを言うのは米国民の健全なバランス感覚だ。ウォーターゲート事件後のカーター候補、イラン革命後のレーガン候補、冷戦終了後のクリントン候補、アフガン・イラク戦争後のオバマ候補の当選はそれぞれ大統領選挙の中で政治を変えようとする米国民主主義の真骨頂だ。
要するに大統領選はまだ星雲状態ということだ。筆者がワシントン在勤中の92年、多くの本命候補が失速する中で