今回はある島国での話。伝統ある保守政党が久しぶりに総選挙を制した。労組中心の中道左派政党が敗北した。連立を組む中道政党抜きで保守政党が単独過半数を獲得したのは1990年代以来。しかも事前予想は大きく外れた。どこの国の選挙かお分かりだろうか。英国ではない。実はこれ、平成17(2005)年の日本の「郵政解散」選挙の結果である。
それはともかく、今回の英総選挙は現職首相が政権を維持したからか、日本メディアの扱いは大きくない。しかし現在の英保守党を取り巻く環境を知れば知るほど学ぶべきことが多いと感じた。もちろん、日英の諸事情が大きく異なることは承知の上だ。
(1)選挙予想は当たらない
投票日直前、英エコノミスト誌は「今回の選挙は英国にとり破滅的だ。英国は破滅する運命にあるかもしれない」と書いた。BBCなどは出口調査に基づき「どの政党も過半数は取れない」と予測した。だが実際には保守党が単独過半数を獲得、5年ぶりの政権交代を目指した労働党は大敗した。英国各紙は理由として「有権者が高い経済成長率など与党の実績を評価した」と解説したが、いかにも後知恵だ。要するに「選挙予想は当たらない」のである。
(2)ブレキジット(英国離脱)の可能性
現政権は安定、英国はエコノミスト誌が指摘する危機を当面回避したかに見える。だが、今回の総選挙により、外交面で英国が対EU(欧州連合)関係を見直すことは確実となった。キャメロン首相は2017年末までにEU離脱の賛否を問うという。今や英字紙にはブレキジットなる新語が躍る。英国にはEUからの移民が増え雇用が奪われたり、教育・医療などの公共サービスが劣化したとの批判が消えない。キャメロン政権は対EU交渉を約束するが、失敗すれば国民投票でEU離脱が決まる恐れもある。
(3)連合王国分裂の可能性
もう一つの危機は国内分裂の可能性だ。今回注目すべきは、保守党と連立を組んだ自由民主党が惨敗し、スコットランドの独立を目指すスコットランド民族党(SNP)が56議席も獲得したことだ。現政権最大の内政課題は独立機運が高まる北部の独立をいかに阻止し、英国の分裂を防ぐかであろう。SNP党首は「われわれの仕事はスコットランド住民の権利を守ることだ」と述べ、昨年に続き再び独立の賛否を問う住民投票を実施する構えだ。保守党勝利の理由の一つとして、有権者が労働党とスコットランド民族党の協力が英国の分裂を招く、と危機感を抱いたためと報じる向きもある。
さて、こうした英国内外の諸懸案は日本にとって「対岸の火事」ではない。今回日本が英総選挙から学ぶべき教訓を列挙してみよう。
●欧州のEUとアジアのCU
大陸沖に浮かぶ島国である日英は常に大陸との関わり方に意を用いてきた。英国にとってEUは今も開発途上だが日本の場合アジア大陸には既に強固なCU(中華連合)が存在する。英国にはEU離脱の選択肢があるが日本にCU加盟という選択はない。英・EU関係の将来は日本がアジア大陸との距離を測る上で大いに参考となるだろう。
●国内少数派を大切に
対EU関係よりも深刻なのがスコットランド独立問題だ。英国は連合王国、16世紀にイングランドがウェールズを併合し、18世紀にスコットランドを統合し、19世紀にアイルランドと合併し、その後アイルランドの大半が離脱して現在の形となった。地域間に微妙な確執があるのは当然だ。では日本はどうか。英総選挙最大の教訓は国家統一こそが「国家生き残りの鍵」ということだ。これ以上は言わない。日本にスコットランドや北アイルランドのごとき「少数民族主義」を生んではいけない。