メディア掲載  グローバルエコノミー  2015.03.04

農業と農政の課題

NHK第一ラジオあさいちばん「ビジネス展望」 (2015年3月3日放送原稿)

1.日本の農業は、どのような点が問題なのでしょうか?

 日本農業の問題は、非効率だということです。特に、米が際立っています。農家の7割もが米を作っているのに、農業の2割しか生産していません。これは、米農業が、たくさんの非効率な生産者によって行われていることを意味しています。

 なにもなければ、米だけ特に非効率になってしまうことはなかったはずです。政策による人為的な力が働いたからです。政府が農家から米を買い入れた食管制度のもとで、1960年代以降、政府は農家所得向上を目的として、米価を上げました。米価が高いので、コストの高い、零細な規模の農家が、米生産を継続してしまいました。また、機械化が進んだため、1ヘクタール規模の農家では、年間30日ほど働くだけで、米は作れてしまいます。こうして、平日は工場や役場などに勤務して、週末だけ農作業を行うという兼業農家が多くなりました。

 兼業農家の人が土地を手放さないため、専業農家の人たちが、農地を集めて規模を拡大し、コストを下げて、収益を向上させることが、困難になりました。米価を上げたことは、本職がサラリーマンの兼業農家に米作りを続けさせ、農業だけで生きて行こうとする専業農家の経営を苦しくしてしまったのです。


2.食管制度が廃止された今は、どうでしょうか?

 食管制度が1995年に廃止された後は、減反政策によって、高い米価は維持されています。減反政策とは、生産者に補助金を与えて、米の生産を減少させ、米価を高くするという政策です。この補助金に、納税者は4千億円も負担しています。また、米価が高くなるので、消費者は6千億円もの負担をしています。財政負担をするのであれば、消費者に安くモノやサービスを供給するというのが、普通の政策なのですが、減反政策は、国民に納税者として、消費者として、二重の負担をさせようというものです。2兆円規模の米産業に、国民は1兆円の負担をしています。

 他の農産物も国際価格よりも高い価格で保護されています。そのためには、高い関税が必要になります。小麦では、消費量の14%の国産小麦の高い価格を維持するために、輸入小麦についても課徴金を徴収して、国民に高いパンやうどんを食べさせています。消費税引き上げについて、貧しい消費者の負担が増えるという逆進性が問題になり、食料品には軽減税率が設けられることになりました。しかし、減反や高い関税で高い食料品を消費者に購入させることは、逆進性そのものです。特に、米は主食のはずなのに、減反はやめられません。


3.米価を上げる以外方法はなかったのでしょうか?

 所得は、価格に販売量をかけた売上額からコストを引いたものなので、所得を上げようとすると、コストを下げるという道もありました。米作農業で、コストを下げようとすると、規模を拡大することが必要となります。しかし、農地面積が一定で、一戸当たりの規模を拡大することは、農家戸数を減少させることになります。これは、政治的には農家の票が少なくなってしまいます。

 農協にとっては、米価が上がると、価格に応じた販売手数料も上がります。また、兼業農家が滞留したので、その兼業所得が農協口座に預金されます。こうして農協は預金量90兆円の日本第二位のメガバンクに発展しました。


4.安倍政権は、農協改革に取り組みました。

 これまで、どの政権も取り組まなかったことに取り組んだことは評価できます。農協の指導・政治機関で、ピラミッド型組織の頂点に位置していた、全中の権限を弱めることとなりました。一歩、農協改革に踏み込んだといえます。

 根本的な改革としては、今のJAという農協は、農業部門を切り離して地域協同組合として残すべきと思います。JAは預金量の1%から2%しか農業には融資していません。農家ではない准組合員への住宅ローンなどへ3割が融資され、残りはウォールストリートで有価証券投資をしています。本来の農協は、農家が相互に融資しあう組合として作られたものですが、今のJAには、農業金融という色彩はほとんどなくなっています。農家ではない准組合員の方が正組合員より100万人も多い、農業の協同組合というのは、いかにもおかしいと思います。

 今のJAは、戦前の統制団体を戦後衣替えして作ったものです。消費者が生協を作るように、農協は、JAとは別に、専業農家の人たちが自主的に作ればよいと思います。これが本来の協同組合のはずです。


5.農業再生のための政策とは何でしょうか?

 減反を廃止すれば、米価が下がるので、零細な兼業農家は農地を出してきます。専業農家に限り財政から直接支払いを行えば、その地代負担能力が上がって、農地は専業農家に集まってきます。規模が拡大してコストが下がれば、国際競争力も向上します。人口減少で縮小する国内市場から、国際市場に展開していくことが可能になります。減反を推進してきた農協の改革が進めば、望ましい農業が実現できると思います。

 最後に、9年間私の話を聞いていただいた、ラジオの向こう側にいらっしゃる皆さんに感謝の気持ちを申し上げて、私の放送を終わりたいと思います。これまでのご清聴、有難うございました。