メディア掲載  グローバルエコノミー  2015.02.27

農協改革をどう見るか(下)農林水産省、農協、農林族議員の密接な関係に、大きな亀裂が生じた意義

WEBRONZA に掲載(2015年2月13日付)

■規制改革会議の農協改革案
 食管制度は廃止され、農地制度も改革されてきたが、これまで誰も、農協には手をつけられなかった。しかし、2014年5月政府規制改革会議がまとめた農協改革案は、画期的なものだった。

 第一に、農協の政治活動の中心だった全中(全国農業協同組合中央会)や都道府県の中央会に関する規定を農協法から削除する。全中は系統農協などから80億円、都道府県の中央会が徴収するものをいれると300億円超の賦課金を、徴収してきた。

 農協法の後ろ盾がなくなれば、全中等は義務的に賦課金を徴収して政治活動を行うことも、強制監査によって傘下の農協を支配することもできなくなる。

 第二に、全農やホクレンなどの株式会社化である。これは、協同組合ではなくすということである。全農を中心とした農協は、肥料で8割、農薬・農業機械で6割のシェアをもつ巨大な企業体であるのに、協同組合という理由で、全農やホクレンには独占禁止法が適用されてこなかった。さらに、一般の法人が25.5%なのに 19 %という安い法人税、固定資産税の免除など、様々な優遇措置が認められてきた。

 第三に、准組合員の組合利用を、正組合員の2分の1とする。これは、農協の意向を忖度せざるをえない自民党によって、完全に骨抜きされた。全中は新たな制度に移行するが、「農協系統組織での検討を踏まえ」る。全農の株式会社化も、「独占禁止法が適用される場合の問題点を精査して問題がなければ」株式会社化を促すとされた。改革するかどうか、判断するのは、農協となった。全中は勝利宣言した。

 2014年11月、全中が公表した自己改革案では、地域農協に対する全中の監査権限は維持するとともに、全中などの中央会を農協法に措置することが重要だとした(全農やホクレンなどの株式会社化については、検討を先送りした)。


■強制監査が争点に
 JA農協は、上意下達の"トップ・ダウン"の組織である。強制監査は、中央の連合会が地域の農協をコントロールする手段として機能した。

 ボトム・アップ組織の生協には、全国連合会による強制監査などない。また、農協は、株式会社の場合の公認会計士又は監査法人による外部監査は、投資家保護のためである。組合員を抱える農協では十分ではないというが、生協の外部監査も、公認会計士又は監査法人によるものである。

 全中の強制監査をなくし、全農やホクレンなど連合会を株式会社化すれば、コストが低下するので、農家の所得は向上する。価格が安くなれば、消費者は利益を受ける。農協改革は、農家だけではなく、国民にとっても必要なのである。

 安倍総理の意向をていして、自民党農林幹部と全中会長との間で協議が行われた結果、全中に関する規定を農協法から削除し、全中を経団連と同様の一般社団法人とする、地域農協は全中監査と監査法人の監査を選択できるようにする、都道府県の中央会は引き続き農協法で規定する、准組合員の事業規制については見送るという内容で、決着した。


■貴重な一歩だが
 全中監査を強制監査ではなくしたことで、全国団体の統制が弱まることは、期待される。どれだけJA越前たけふのような農協が現れるかは分からないが、以前よりも、地域農協の自由度は増すだろう。

 しかし、全中の政治力は、依然として排除されない。全中は一般社団法人に移行するものの、農協法の付則で、JAグループの代表、総合調整機能を担うと位置づけることとした。また、都道府県の中央会は、そのままである。

 全中自体は、強制的に賦課金を徴収する法律上の権限はなくなったが、都道府県の中央会は、依然として強制的に賦課金を徴収できる。都道府県の中央会は全中の会員なので、都道府県の中央会が集めた賦課金は従来通り、全中に流れて行く。

 全農等の株式会社化は、全農等の判断に任されることとなった。協同組合であり続けるメリットのほうが大きいので、全農等があえて株式会社化を選ぶとは思えない。

 准組合員の事業規制は、見せ球だったように思われる。地域農協や都道府県の組合からすれば、准組合員がいなくなれば、融資先に困ってしまう。准組合員の事業規制を提案したとたん、かれらにとって、准組合員が維持できるのであれば、全中監査などどうでもよいという判断になったのだろう。

 しかし、准組合員の方が多い"農業"協同組合というのは異常である。本来なら、農業協同組合法と地域協同組合法の2法を制定すべきだ。地域組合は、これまでJAが行ってきた信用・共済事業や地域住民への生活資材供給を行う。

 地域協同組合となれば、今のJA農協の正組合員と准組合員の区別はなくなる。准組合員も正組合員になるのである。JA農業部門は、解散するか、新たに作られる農協に移管する。農協は、必要があれば、主業農家が自主的に設立するだろう。それが本来の協同組合である。

 海外の農協は、組合員の利用度に応じて組合員に発言権が与えられるという組織に転換しつつある。今のJAでは、主業農家も零細な兼業・高齢農家も、同じく一票の決定権を持つため、少数の主業農家ではなく、農業をやっているとはいえない多数の兼業・高齢農家の意見が、農協の意思決定に反映されてしまう。

 JAが主業農家の規模を拡大するという農業の構造改革に反対してきたのは、このためである。この一人一票制の改革やJAの地域協同組合化など、本質的な部分はまだ提案もされていない。これで、農協改革を終わらせてはならない。


■"農政トライアングル"に生じた亀裂
 これまで、農政は農林族議員だけで決めてきた。農林族議員に有力な議員が多く、都市出身議員が、農政に口を出すことは、タブーだった。しかし、有力な農林族議員は少なくなった。農協改革を進めようとする議員グループが、自民党の中でも、活発に行動し、農林族議員に公然と対抗するようになった。

 あくまで農家戸数を維持したい農協に対し、農業が衰亡すれば、農林水産省は組織を維持できなくなる。農業を発展させようとして農林水産省が推進しようとした農協改革に、JA農協は、農林水産省の方針の変節を激しく指摘する等、農林水産省と全面対決の様相を呈している。

 私が"農政トライアングル"と呼んだ、農林水産省、農協、農林族議員の密接な関係に、大きな亀裂が生じている。今回、農協改革がたとえ期待する成果を上げなかったとしても、農政トライアングルに亀裂を生んだことの意義は大きい。