論文  外交・安全保障  2015.01.15

日韓関係から見た企業とソフト・パワー

はじめに


 キヤノングローバル戦略研究所では2009年以来、日本と韓国における企業と文化を中心に「企業と国際関係」に関する研究を進めてきた。

 今日、各国政府では国際関係における「ソフト・パワー」を重視する姿勢が強まっている。政治的あるいは経済的な強制からではなく、国としての魅力を他国に知らしめることによって、他国との関係をより良いものにし、自国の立場への理解を深めてもらうという動きである。日本政府も、広報文化外交の一環として、「ソフト・パワー」や「パブリック・ディプロマシー」といった言葉を多用するようになっており、「クールジャパン」を推進する政策も盛んになっている。しかしながら、この自国のソフト・パワーの向上を目的として政府が推進する文化の範囲は非常に広く、各国に伝統的・歴史的に存在する文化を中核とし、それを海外でアピールするものが多い。また、「ソフト・パワー」や「クールジャパン」に関する先行研究の多くは、各国の文化の中身からその影響力を論ずるにとどまる。

 しかし、「グローバル化」が進展している現状では、経済的な関係を介して人々の間の文化的、社会的な交流が増加し、その結果として、人々の他国に対するイメージや印象が変化していく、という現象が見られる。日本の輸出において、当初は「安かろう悪かろう」というイメージが先行していたが、品質の良い自動車や家電製品が他国の市場に行き渡るに従い、他国の人々が日本に抱くイメージも変容してきたことはその一例である。日本製品の買い手である人々に広く高品質というイメージが広がったからこそ、日本に対する人々の評価や親しみも変容したと言えよう。日本は知らないが日本製品は知っている、という現象が、日本製品を通して日本への関心を高めたという側面も指摘できる。

 また、文化に関わる外国との経済活動を規制する国家も存在するが、それは、経済活動を通じて特定国の文化的な影響が増大することを危惧しているからに他ならない。すなわち、政府が意図した政策とは異なり、企業が担う経済活動を通して、結果として国家としての魅力が他国の人々に伝わり、人々の当該国に対する親しみが増加するという点は、現代の国際関係におけるソフト・パワーを考える上で重要な視点と言えよう。

 

 以上がこの研究を始めた背景であり、研究結果としての報告書(添付)は2014年12月に完成した。
 この研究会に参加したのは次の4名である。
(東京大学)
 教授 古城佳子
 研究員 西村もも子
(日本経済新聞社)
 梶原誠
(キヤノングローバル戦略研究所)
 美根慶樹


 なお、2013年11月8日の日本経済新聞・経済教室欄に、本研究に基づいて執筆された「企業の力で『日本』の広報を」が掲載された。本報告とあわせてご覧いただきたい。

 2014年12月
美根慶樹


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