メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.11.26

米中間選挙・共和党勝利が決定づけたTPP交渉の方向

WEBRONZA に掲載(2014年11月8日付)

 アメリカの中間選挙で共和党が連邦議会上院の多数を占め、上下両院とも、共和党が多数を占めることになった。両院のねじれが解消された。

 民主党と異なり、共和党は自由貿易に積極的である。選挙中、上院共和党のリーダーであるミッチ・マコネル院内総務は、「オバマ政権とは、是々非々で仕事をする。貿易自由化には協力する。」と述べていた。


■TPAを獲得する米政府
 選挙前は難しかったが、ようやくアメリカ政府は、通商交渉権限を持っている連邦議会から権限を授権してもらうTPA(大統領貿易促進権限法)を獲得できるだろう。

 オバマ政権にとっては野党が勝利することで、政権が推進しようとしているTPP交渉が前進することになる。TPP交渉を始め、貿易自由化交渉に民主党が積極的だったことは少ない。労働組合を支持母体とする民主党は、海外から安い商品が入ってきて、雇用が損なわれるとして、自由貿易には否定的だった。TPP交渉については、オバマ政権と与党民主党の間にねじれがあったのだ。

 TPP交渉は、TPAを獲得した後の、来年前半に妥結すると考えられる。大統領選挙はその翌年の2016年である。来年はアメリカにとって選挙もなく、特定の業界に不利益を与える自由貿易協定でも、選挙を心配しないで妥結することが可能だからである。しかも共和党中心の議会なので、議会の承認を得ることは難しくない。他方で、共和党中心の議会となると、自由貿易派が勢力を増すことを覚悟しなければならない。


■米通商代表部の今後の主張とは
 逆に、日本では、自民党や国会の農林水産委員会が行った、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖などを関税撤廃の例外とし、これが確保できない場合は、TPP交渉から脱退も辞さないという決議に政府は縛られている。

 日本政府の対処方針を受けて行われた、これまでの日米協議の内容については、以下のような報道がなされている。

 「米、麦、砂糖については現在の関税を維持するとともに、米、麦については、米国産の輸入枠を拡大することで合意、牛・豚肉については、アメリカは関税の撤廃は取り下げたが、大幅な引下げを要求し、これに対して日本側は輸入量が増えた場合に関税引き上げが容易に行われるよう主張している」

 しかし、これは文書となって確認されているものではない。新しい共和党中心の議会の下で、アメリカ通商代表部はこれまでの交渉の対処方針を全面的に否定することは可能であるし、そのような主張を行ってくるだろう。


■米通商代表部、関税撤廃を強く要求か
 豚肉を中心とするアメリカの農業界は、関税が撤廃されないことに対して、猛然と反発している。アメリカ最大の農業団体は民主党ではなく共和党支持である。既に、選挙前の議会でも、アメリカの下院議員の3分の1にあたる140人は、オバマ大統領に、関税撤廃について多くの例外を主張する日本を外して交渉を妥結すべきだという書簡を送っている。

 通商代表部は、これまでの交渉はご破算にして、日本に対して関税撤廃を強く要求してくるだろう。国際価格よりも高い価格を守るために必要だった高率の関税である。

 日本では、消費税の逆進性を問題とする政治がある一方で、消費者に対して高い価格を強要する、逆進性の塊のような高関税、高価格の農政を守ることが国益だという政治の欺瞞が今もまかり通っている。国民・消費者は声を大にして批判すべきではないだろうか。


■直接払いの農業保護も視野に
 関税がなくなっても、財政からの直接支払いで農業は保護できる。むしろ、そのほうが消費者の利益になる。なぜ高関税、高価格は許容され、なぜ直接支払いは妥当ではないのだろうか。

 外圧に触発された疑問であるが、国民・消費者は、産学官一体の「農業村」に問いただすときが来たように感じる。