メディア掲載  グローバルエコノミー  2014.10.24

米価を低下させた農協が要求する価格補てん

WEBRONZA に掲載(2014年10月9日付)

 米価低下に、農協や政治が反応している。農協の要請を受けた自民党は、農水省に米価低下に対する農家への価格補てん、米の買い入れによる米価回復を強く要求している。

 農協は、2014年産米の概算金が過去最低の水準に下がり、農家の再生産が危うくなっていると主張している。通常は、米価というと、農協が卸売業者に販売する価格である。しかし、自民党の会議でも米価ではなくコメの概算金が大きく下がっていることが取り上げられている。

 コメの概算金とは、農協が収穫後に卸売業者に販売できると見込む価格から農協の販売手数料を差し引いて、農家に支払う価格である。実際に卸売業者への販売価格が高くなったり、低くなったりすると、農家に支払う最終価格は調整されるが、基本的には農家の手取り価格だと考えてよい。

 14年産米の概算金は一部の銘柄を除き、60kg当たり1万円を割り込んだ。東北の主要銘柄は8,000円台、その他の銘柄は7,000円台と3,000円前後の値下げである。

 しかし、農協が卸売業者に販売するいわゆる米価は、コシヒカリ以外のその他銘柄で13,000円台から11,000円台へ2,000円程度しか低下していない。米価以上に農家の手取りであるコメの概算金が低下しているのだ。

 この米価の低下額より、米価から農協の販売手数料が引かれて農家が受け取る概算金の低下額の方が、大きいことは、農協は昨年産より多い額の販売手数料を米価から差し引いていることを意味する。

 つまり、農協は米価の低下を全額農家に負担させているどころか、自己の取り分を増加させ、米価の低下以上のものを農家に押し付けているのだ。その他銘柄の米価11,000円台と農家が受け取る概算金7,000円台の差は、4,000円。これが農協の販売手数料である。率にすると約35%の高利だ。


 農協が確保するのは農協の利益であって、農家の利益ではない。農協は、農協のための組織になっている。農家のための組織なら、自己の利益を削っても、農家の損失を少なくするよう努めるはずだろう。

 しかも、米価低下の原因を作った張本人は農協だ。過去2年間コメは豊作だった。それなのに米価は上昇した。農協が市場への流通量を抑えたからだ。必然的に過剰在庫が累積した。今年の米価低下は、この過剰在庫が大きな供給圧力となっているからだ。

 その農協が自分の手数料はしっかり確保したうえで、農家に米価低下のツケを全て押し付け、あげくには政府に低下補てんを要求するというのは、どういう料見なのだろうか。政府の負担とは、納税者の負担である。これで米価が上がれば、国民は消費者としてまた高い負担を強いられることになる。つまり、農協は十分すぎるほどの利益を確保したうえで、国民に負担を押し付けようとしているのだ。

 米価操作も農家手取り価格の低下も、全て農協、特に農協の全国組織である全農が独占的な地位を維持しているからだ。協同組合であることを理由に、農協には独占禁止法が適用されない。

 規制改革会議が提案したように、全農を株式会社にして、全農に独占禁止法を適用しなければ、また同じことが繰り返される。今回の米価低下で、農協が農家のためにも国民のためにもなっていないことがよくわかったのではないだろうか。農協改革は必然である。