ワーキングペーパー グローバルエコノミー 2014.10.08
近年金融政策を経済学的に分析する際、貨幣の役割を明示的に描写した、いわゆる貨幣的基礎づけのあるモデル(microfounded model of money)を用いることが多い。それらのモデルでは、いわゆる定常均衡が唯一に定まることが明らかになっている。しかし、その均衡の唯一性は、貨幣を必要とする市場と必要としない市場が交互にあらわれるという極端な仮定のもとに導かれている。本論文においては、その仮定をはずし、貨幣を必要とする市場が2回続けて現れるようなモデルを構築し、定常均衡が2つ、ないし3つ現れる場合があることを示す。それは貨幣を必要とする市場が続けて現れる場合、最初の市場における貨幣保有量が、次の市場における貨幣保有量に非線形な形で依存するためである。この結果は、市場における売り手、買い手の役割に関する確率的ショックに対して頑健であることも示す。
この論文の結果から、同じ金融政策を行っても、生産量が多い均衡と少ない均衡という2つまたは3つの異なる均衡が発生することが分かる。これは政府・中央銀行が金融政策によって必ずしも経済を思った通りにコントロールできないことを意味している。この結果は、現実の世界で金融政策の有効性や信頼性を簡単に評価することはできないのではないか、という理論的可能性を示唆している。
Multiplicity of monetary steady states(英語) (PDF:221KB)